最新記事

中国外交

今年はまだゼロ! 習近平が「一帯一路」をまったく口にしなくなった理由

The BRI in Disguise

2022年9月14日(水)17時36分
アンドレア・ブリンザ(ルーマニア・アジア太平洋研究所副代表)
習近平の一帯一路

2019年に北京で開かれた一帯一路フォーラムには100カ国以上から数千人の代表が集まった FLORENCE LOーREUTERS

<悪評たらたらの一帯一路は捨てた? 習近平は「GDI」へ看板の掛け替えを図るが、国際社会の疑念を晴らすことがまず先決だ>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、海と陸に現代版シルクロードを整備して巨大経済圏を構築する構想「一帯一路(BRI)」を発表したのは2014年のことだった。当初はシルクロードという歴史ロマン的な響きも相まって、世界の多くの国が魅了された。

ところが、それから10年近くたった今、一帯一路という言葉を中国の指導者たちの口から聞く機会は著しく減った。中国が中心となって世界の発展を図るというアイデア自体が消えたわけではない。ただ、グローバル発展イニシアティブ(GDI)という新しい看板が前面に押し出されるようになったのだ。

一帯一路は中国の外交になされた最強のブランディングであり、習のリーダーシップと強力に結び付けられてきた。それなのに最近は、習でさえも一帯一路という言葉を単独で使うことはほとんどない。今年に入り英訳が公表されたスピーチではゼロだ。

中国版ダボス会議とされる博鰲(ボアオ)アジアフォーラムや、BRICS首脳会議などでのスピーチでも「質の高い一帯一路共同建設」と語るなど、どこか濁した表現だ。

習の活動からも、一帯一路関連の仕事は消えつつある。17年と19年には、北京で「一帯一路フォーラム」が開催され、世界100カ国以上から首脳級の要人が集まったが、新型コロナの流行もあり、その後は開催されていない。

ただ、王毅(ワン・イー)外相が21年に、「一帯一路国際協力サミットフォーラム諮問委員会」をオンライン開催した。一帯一路関連の最大のイベントで、習近平自らが脚光を浴びることをやめたのだ。

21~22年に中国外交部のウェブサイトに英訳が掲載された中国政府高官のスピーチ80件のうち、一帯一路に言及しているのは44件。このうち22件は「質の高い一帯一路共同建設」「グリーン一帯一路」など、微妙に調整が施された表現になっている。

一帯一路の未来に垂れ込める暗雲

「一帯一路共同建設」という新しい表現は、一帯一路プロジェクトの未来に暗雲が垂れ込めていることを示唆している。興味深いのは、中国語の表現は「一帯一路」のみのままなのに、英訳になると「共同建設」とか「パートナーシップ」といった言葉が付くことだ。

以前の中国政府は、一帯一路というブランドにこだわり、「戦略」「プロジェクト」「計画」といった概念と関連付けられることをひどく嫌がった。どうやら中国は今、少なくとも国外向けには、一方的な印象を与える「構想」よりも、友好的な響きのある「共同建設」へと、一帯一路のイメージ転換を図っているらしい。

とはいえ、一帯一路の基本的なコンセプトが消えたわけではなく、GDIという、新しい看板に掛け替えられるだけのようだ。GDIは、習が21年9月の国連総会演説で言いだしたものだが、その内容は、一帯一路と同じくらい漠然としている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中