最新記事

イギリス

「停滞した田舎のお荷物」──ジョンソンの暴言の置き土産「保守党問題」

Johnson’s Toxic Legacy

2022年8月24日(水)12時28分
ジェイミー・マクスウェル(スコットランド在住ジャーナリスト)

ジョンソンへの反感が高まるほど、独立を求める声は強くなっていった。スコットランドで20年6月から21年1月までに行われた世論調査では、19回連続で独立支持が50%を超えた。また、21年5月の地方選挙でSNPとスコットランド緑の党の連立与党が勝利し、14年連続で民族政党が与党となった。

とはいえ、スコットランドのアンチ保守党感情は、ジョンソンから始まったわけではない。その根底には、1970年代末に始まったマーガレット・サッチャー首相の時代に味わった苦い経験がある。

例えば、サッチャー政権が強行した悪名高い人頭税は、まずスコットランドで導入された。サッチャリズムの看板である規制緩和や金融引き締めも、スコットランドに大打撃を与えた。その一方で、サッチャーは地方の自治権要求の声に耳を貸さなかった。ようやくスコットランドが自治権を獲得したのは、サッチャー時代が終わった後の97年だ。

首相就任当初のジョンソンは、「イギリスを平準化する」として、地域活性化投資を積極的に進めた。なにしろ男性の平均寿命だけ見ても、スコットランドの最大都市グラスゴーでは73歳で、ロンドン郊外のチルターンズでは83歳と、10歳もの差がある。ジョンソンはこうした地域間の豊かさの格差を縮小しようとした。

だが、そもそもこうした格差が生じたのは、サッチャー以降の保守党政権が、イングランド北部やウェールズやスコットランド中部の工業を犠牲にして、ロンドンの金融業界の成長を優先してきた結果だ。ジョンソンの平準化キャンペーンも、他の領域で危機が大きくなると、いつの間にか勢いを失っていった。

歴史的過ちへの反省なし

むしろブレグジットによって、ジョンソンは中央集権的な傾向を強めたように見える。保守党主導の議会は2020年、EUから重要な規制権限を取り戻す国内市場法案を可決した。その権限はさらにスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの議会まで戻されるべきだったが、ロンドン止まりだった。SNPはこれを「権力の横取り」だと厳しく批判した。

保守党の新しい党首候補であるスナクとトラスは、どちらもジョンソン政権の閣僚を務めた人物であり、保守党のスコットランドとの関わり方を変えそうには見えない。既に2人とも、スコットランドの独立を問う住民投票の再実施を首相として承認するつもりはないと述べている。

サッチャーのように自己顕示欲の強い職業政治家トラスと、元金融マンで党内屈指の資産家であるスナクは、スコットランド問題にほとんど関心を示していない。彼らの口から出てくるのは、従来の党の立場に沿った言葉ばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税による輸出採算悪化、賃上げへの影響に不確実性=

ワールド

インド製造業PMI、7月改定値16カ月ぶり高水準 

ワールド

英政府、ヒースロー空港拡張の競合2提案検討

ビジネス

三井物産、4─6月期の純利益3割減 前年の資産売却
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中