最新記事

ウクライナ戦争

残虐行為を目撃し、飢餓と恐怖に耐えた子供の心と体に「戦争後」に起きること

THE CHILDREN OF WAR

2022年8月20日(土)18時27分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

magSR20220819children-5.jpg

子供用仮テント UNICEF/UN0642201/FILIPPOV

その意味では、ソフィアは幸運と言えるだろう。彼女は戦闘を目の当たりにしてから約3週間後の5月10日、状況がさらに悪化する前に脱出した。空腹に耐えるという経験もなく、病気にもならなかった。

戦争の最も広範な影響は、得てして暴力に直接さらされることではないと、国連大学世界開発経済研究所シニアリサーチフェローのパトリシア・ジャスティノは言う。むしろ、暴力を避けようとする人々が安全を確保するために耐え忍ぶ飢餓や病気が深刻な影響をもたらす。

塩漬けの豚肉がなくなるとミチャエワ家のような人々はどうなるのか。マリウポリで多くの人が経験し、今もウクライナ東部で数百万人が経験しているように、電気もなく、ひどく寒いぬれた地下室や瓦礫の中で身を寄せ合って、恐怖に怯えながら何週間も過ごす。

生活の維持に必要なインフラが破壊される。公衆衛生も医療も不足し、警察は機能せず、破壊された残骸の中で無秩序と悪が育まれる。そして何よりも、絶え間ないストレスが過酷な犠牲を強いる。

ブルンジやルワンダ、ボスニア、南スーダン、インドネシアのバンダアチェの戦争生存者に関する研究でも、明確な影響が証明されている。前線が移動するたびに、その後ろに閉じ込められた子供を救うことは時間との戦いになると、ウクライナの救援活動に携わる人々は知っている。

重要な社会的発達の機会を奪われる

小児科医の言う「毒性ストレス反応」を和らげる上で、親は重要な役割を担う。ストレスホルモンのコルチゾールが引き起こす生物学的な反応の連鎖は、後年のさまざまな健康問題に関連する。

長時間のストレスがアドレナリンの分泌を促し、闘争・逃走反応を一気に活性化させて、さらなるストレスに備えるための酵素を体内に送り込む遺伝子のスイッチをオンにする。

そのため、毒性ストレスを受けた子供は感情のコントロールが難しくなる。さらに、体が常に過敏な状態になって正常な発達が阻害される。

さまざまな紛争を生き延びた子供に関する研究から、長引く紛争に耐えている子供は早めに避難した子供より背が低く、成長しても体が小さいことが分かっている。一方、紛争地の学校は基本的に危険な場所で、教育上の障害は完全には回復しない。

戦争を経験した子供の多くは紛争地域に戻らないが、戻った子供、特に最も幼い生存者は、重要な社会的発達の時期を逃す。

体内ではストレスホルモンが遺伝子のスイッチを切り替え、化学反応の変化が始まっている。こうした課題は経済学の研究でも、子供時代に戦争を生き延びた成人の賃金減少、失業率の上昇、労働成果の低下として表れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米との直接交渉遮断 トランプ氏「文明破壊」

ワールド

一部原油現物が最高値、150ドルに迫る 供給ひっ迫

ワールド

イラン、サウジ・ジュベイルの石化コンビナート攻撃 

ビジネス

中東戦争がインフレ押し上げ、年内約2.75%に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 5
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 8
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 9
    「人間の本性」を見た裁判官が語った、自らの「毒親…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中