最新記事

エネルギー

原発は新たな黄金時代へ ウクライナ紛争によるエネルギー危機が追い風に

2022年8月8日(月)13時38分

複数の専門家の話では、世界の製造業の拠点が集まるアジアは再生可能エネルギーを補完し、化石燃料の代わりになる「ベースロード電源(季節や昼夜、天候を問わず一定量を低コストで供給できる電源)」を求めているので、原発の新規建設をけん引する地域になるだろうという。

IEAは先月、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするには、世界全体の原子力発電能力を2倍に引き上げ、電気自動車(EV)に提供するとともに、水素やアンモニアといった非化石燃料を生産して重工業の排出量削減につなげなければならないと指摘した。

コロナ禍で工期が長引くも、各国が推進

ロールスロイス子会社、ロールスロイスSMRのポール・スタイン会長は先月、シンガポールやフィリピン、日本では小型モジュール炉(SMR)のような新技術導入が議論されていると述べた。SMRは従来の原子炉に比べ、建設期間が短縮化されて費用も安くなる。

スタイン氏はインタビューで「極東の高度に工業化された経済諸国では、工業化が進んでいる欧州や米国と同じか、それ以上に急速な原発の増加が求められている」と語った。

従来の原発でも耐用年数が終わるまでの平均発電コストは、現在の価格に基づく天然ガス火力発電の半分未満で、これは石炭火力も同様なだけに、各国が原発プロジェクトを復活させる要因になっている、とウッド・マッケンジーのウィットワース氏は説明する。

ウィットワース氏の話では、足元で原子力はアジア太平洋地域の電力の約5%を提供しているが、2030年には8%まで高まる見込みだ。

一方、福島第1原発事故の後に追加された安全性審査の項目や新型コロナウイルスのパンデミックに起因する工事の遅れと費用増加は、プロジェクトにとって悩みの種と言える。

さらに専門家によると、原子炉の初期費用の高さと、放射性廃棄物処理を巡る問題、全般的な安全性への不安も建設の妨げになっている。

仏大手電力会社・EDFが英国で建設中の原発「ヒンクリーポイントC」も予算が膨れ上がり、稼働開始は当初約束した時期から10年遅れる見通し。EDFはパンデミックによって人員や資源、サプライチェーン(供給網)の面で制約を受けたのが原因だとしている。

米国ではジョージア州にあるボーグル原子力発電所の3号機と4号機が、6年遅れで来年運転を始める。建設費用は当初の2倍以上に膨らみ、300億ドルに達した。

調査会社クリアビュー・エナジー・パートナーズのアナリスト、ティモシー・フォックス氏は「ばく大な超過費用と長期の遅れは、大規模原発の建設を望む向きに不安をもたらしたのは間違いない」と述べた。

それでもバイデン政権は、昨年議会で承認された原子力セクターを支援する60億ドル規模の計画を実行しつつあり、追加支援にも前向きだ。7月27日に上院に提出された法案が可決されれば、新型の原発建設を後押しし、古い原発の閉鎖を阻止できる可能性がある。

欧州では今のところ建設中の原発は数カ所にとどまるとはいえ、フランスは2050年までに最大14基の原子炉を新設する計画。欧州連合(EU)は今月、原子力発電への投資を環境にプラスとなる「グリーン投資」に認定しており、新規プロジェクトには官民の資金が流入するとみられる。

(Enrico Dela Cruz記者、Florence Tan記者、Timothy Gardner記者)


[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港国際空港で貨物機が海に滑落、地上の2人死亡報道

ビジネス

ECB、追加利下げの可能性低下=ベルギー中銀総裁

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、政局不透明感後退で 幅広

ワールド

トランプ米政権、北朝鮮の金正恩氏との首脳会談を模索
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中