2050年には8億人の都市住民が水上生活に?──海面上昇と異常気象で急務の洪水対策

CITY OF WATER

2022年8月5日(金)15時10分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

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南アフリカを襲った長期の干ばつで干上がったダム(18年2月) PER-ANDERS PETTERSSON/GETTY IMAGES

コニー・アイランドのプロジェクトは、ニューヨーク市全域で進められている公営住宅の再建・改修計画のごく一部にすぎない。

NYCHAは、サンディ級の大災害から重要インフラを守り、被災した住人が少しでも早く自宅での生活を再開できるようにするための対策に31億ドルを費やす計画だ。一つ一つの事業の規模は、レッドフック地区の5億5000万ドルのプロジェクトから、イーストハーレム地区の700万ドルのプロジェクトまでさまざまだ。

さらに、ニューヨーク市はこれとは別に、20年秋にマンハッタンで巨大プロジェクトに着工した。14億5000万ドルを費やす「イーストサイド・コースタル・レジリエンシー(ESCR)」である。

巨大な「U字」で都心を守る

ESCRはもともと、「ビッグU」と呼ばれるより大掛かりな水害対策プロジェクトの一部と位置付けられていた。これは、マンハッタンの南部を巨大な堤防で囲み、臨海部を水害から守ろうという計画だった。

具体的には、マンハッタンのミッドタウンからイーストリバー沿いに南下し、島の南端からウェストサイドにぐるりと回り込み、ハドソン川に沿ってミッドタウンまで北上する形で、巨大なU字型の堤防を整備しようという案だ。

もっとも、「ビッグU」は今のところ計画立案段階にとどまっている。どうやって予算を確保するのか、U字のそれぞれの箇所の堤防の設計をどのようにするのかといった点がまだ決まっていないのだ。

ESCRは「ビッグU」の中で最初に実現可能な計画が整い、着工にこぎ着けた。マンハッタン南部のイーストリバー沿岸は水位が2050年までに70センチ、今世紀末までに1.8メートル上昇すると予想されている。

今年2月、東20番街に近い緑地の北側で、長さ13メートル、高さ3メートル、重さ14.5トンの開閉式の巨大ゲートがクレーンでつり上げられた。工事費は150万ドル。長さ213メートルにわたって延びる高さ3.6メートルの防潮壁の間に、同様のゲート18基が設置され、一帯が公園として整備される計画だ。

ニューヨーク市設計建設局(DDC)のトム・フォーリー長官は川岸に立ち、数ブロック先にあるベルビュー病院を悲しそうな表情で指さした。24階建ての巨大な歴史的建造物はサンディの襲来で地階が水浸しになり、州兵の助けを借りて患者を階段で運んだ。開院から276年で初めての避難だった。

このエリアのゲートに守られる住民は約11万人で、そのうち2万8000人は公営住宅に住んでいると、フォーリーは言う。「街の至る所でクールなものを造っているが、これが間違いなく最もクールだ」

ESCRが始動したのは明るい兆しで、世界各地の都市から要人が視察に訪れている。その一方、ここに至るまでの経緯は洪水対策がいかに課題が多く、嫌になるほど長い時間を要するかを物語ってもいる。

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