最新記事

日本政治

維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体

A Windfall Victory

2022年7月13日(水)15時43分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

NW_ISN_05-20220713.jpg

松井は後顧の憂いなく来春引退できるか(7月1日、京都府) Photographs by Soichiro Koriyama for Newsweek Japan

維新のつまずき、自民の悲哀

これが松井ら創立メンバーの維新の強みであり、弱さとみることができる。彼らが大阪で勝利を続けている最大の理由は、言い換えれば相対的によりマシな政党と見なされてきたことに尽きる。

まとまれない自民、地方議員の数を増やせなかった旧民主党、立憲が維新をアシストしているとも言えるのだ。逆に全国進出でつまずいているのは、一地域を超えて訴えられる利益がないからだ。

今回の参院選における地元大阪での第一声は、彼らの性格がより強調されていた。松井は維新が国政に挑戦して10年になるといい「身を切る改革といっても、大したことでない」と謙遜してみせながら、改革で財源を生んで将来世代に振り分けたなどと実績を誇った。

自民出身の松井は、大阪で自民が何をできないかを知っている。府市一体を実現できないことで、逃した利益は大きいと強調すれば支持は逃げない。4議席を争う大阪で、維新は2議席の確保が序盤から見えていた(編集部注:選挙結果でも維新は2議席を維持)。

この日、1時間後に同じ場所で開かれた自民の演説会によってコントラストはよりはっきりとした。

マイクを握った自民党参院幹事長の世耕弘成は持ち時間の多くを使って、「25年の(大阪・関西)万博を前に中央政府とのパイプを持っているのはどこか」と問い、「外交、防衛をやったことがない政党」と維新を揶揄してみせた。

元外交官の松川るいが候補者なので、彼女の実績を強調する狙いもあったとは思うが、世耕のそれは明らかに敗者の言葉だった。「野党」に転落した自民が大阪で語れることは、さほど多くない。再浮上のきっかけをつかめない自民党という政党は、非常にもろいのだ。

演説のポイントを変えた吉村

今回、維新にとって議席を勝ち取ることができれば全国政党への脱皮が見えてくる選挙区は2つある。それが重点区と位置付けた東京と京都だ(編集部注:結果として維新候補はいずれも落選)。大阪府知事で、国政維新の副代表でもある吉村洋文の遊説日程でそれが見えてくる。

第一声は大阪ではなく自民候補、立憲前幹事長の福山哲郎と争う京都に入り、公示後最初の週末は東京を選んだ。

元東京都知事で、維新から全国比例に立候補した猪瀬直樹は、私の取材に「自民は日本の大企業で、維新はベンチャー企業だ」となかなか味のあるセリフを口にした。

その例えは分かりやすい。松井らが創業から10年間、会社を維持してきた経営幹部だとするのならば、吉村はカリスマ創業者から看板を引き継いだ実質的な2代目トップである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関

ビジネス

3月完全失業率は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中