最新記事

スポーツ

戦地でも避難所でも「歓喜の声」 W杯予選ウクライナ勝利が「2時間の幸福」を生んだ

Zelensky Says Soccer Victory Offers Ukrainians 'Two Hours of Happiness'

2022年6月3日(金)16時48分
マイケル・ワシウラ

「わが国の選手たちは、戦争のせいで十分な練習をする機会がなかったと聞いた」とアンナは続けた。「でも、ウクライナ人にとって、ひとつの勝利にどれほどの意味があるのか、選手ひとりひとりがよくわかっていたにちがいない。この気持ちを自分が必要としていたことがわかった」

とはいえ、この試合でアンナが完全に救われたわけではない。「ハーフタイム中にニュースサイトに行ったら、ロシア軍の砲弾が私の故郷ミコライフの住宅街を直撃する恐ろしい動画が目に入った」とアンナは話した。「そのあとの15分は呆然としていたが、後半が始まると、少なくとも試合の緊張感にまた切り替えることができた」

「絶対に負けられなかった」

一方、現在の戦争が始まる数年前からモスクワに移り住んでいた熱烈なサッカーファン、パベルは、「われわれのチームは、なんとしても負けられなかった」と語った。「彼らは、殺されたすべての子どもたちのために、そして力尽きたすべての兵士のためにプレーしていた」

「同時に彼らは、ほんのしばらくのあいだではあっても、すべてが『平穏』であるかのように感じる時間も与えてくれた」とパベルは続けた。「戦争のニュースを絶えず追うのではなく、サッカーだけをひたすら見ていたのは、ここ3か月で初めてだ。それは贈りものだった」

ウクライナのオレクシー・ホンチャレンコ(Oleksiy Honcharenko)議員は、この3-1での勝利が持つ、さらに大きな意味を指摘している。「『戦争が続いているときに、サッカーがなんの役に立つ?』と訊く人もいるかもしれない。だが、こうした状況にあってもなお、すべての人にはやるべき仕事がある」と、彼は本誌に語った。

「軍は戦う。サッカー選手は試合をする。そして今日、われわれの選手たちは、自分の仕事をすることで、何百万人ものファンに幸せと喜びのひとつの手段を与えてくれた。ウクライナは勝利を必要としていた。わが国の選手はわれわれに、そう、われわれは勝てる、きっと勝つということを示してくれた」

ウクライナは6月5日、W杯出場を懸けてウェールズと対戦する。その試合の勝者は、11月21日のFIFA W杯グループステージ戦、アメリカと対戦する。
(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協

ビジネス

円安進行、何人かの委員が「物価上振れにつながりやす

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38

ワールド

英、農業相続税の非課税枠引き上げ 業界反発受け修正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中