最新記事

BOOKS

インドに移住したJKが軽妙に綴る「カースト」と「肌」の重い現実

2022年6月27日(月)11時20分
印南敦史(作家、書評家)
女子高生

写真はイメージです metamorworks-iStock.

<プールサイドで並ぶ、「暗い色」の脚に悩む友だちと、日焼け止めを塗りたくっている自分――。親の転勤でインドに移り住んだ女子高生は、そこで何を感じ取ったか>

なにしろグローバル社会なのである。日本で生活していた女子高生(JK)が、親の突然の転勤で海外に移住するというようなことがあってもなんら不思議ではない。

『JK、インドで常識ぶっ壊される』(熊谷はるか・著、河出書房新社)の著者も、高校入学を目前に控えた中学3年生のタイミングで海外移住の話を親から聞かされた。だがそのときには、「やっぱりアメリカ? それともヨーロッパかな。東南アジアとかもありえなくはないかもね」などと予想していたという。

ところが、行き先は予想外の国だった。空港に飛行機が着陸しようとしているときの記述に、もうすぐ"一般的なJK"になるはずだった(少なくとも、そう信じて疑わなかった)著者の偽らざる思いが表現されている。


 あと一年で掴める「JK」という輝かしい称号を捨てて。居心地の良い友だちや部活動の輪を抜けて。好きなアイドルのライブに行くのをあきらめて。住み慣れた高層マンションを空にして。淋しそうな祖父母の顔に背を向けて。それらに伴う悲しいも切ないもすべて振り払って、自分は一体、どこへ向かっているんだろう。
 ドスン。身体を底から持ち上げられるような衝撃が走る。窓のそとにはもう地面が見える。
 ついに、か。ようやく、か。
 この無機質な空間に閉じ込められた八時間が終わる。そうしたら、自分がいるのは生まれ育った日本でも、どこの土地や海の上かわからない雲の合間でもない。
 そこはもう、インドだ。(9〜10ページより)

友だちや知り合いに「どこに住むと思う? びっくりすると思うけど......インドなんだよね」と告げるたび、なぜだか気が引け、ばつが悪い気がしたそうだが、中学3年生の心情としてそれは普通ではないだろうか。


縮こまった全身の筋肉を無理やり動かしてボーディングブリッジの傾斜面をのぼると、大勢の空港職員が待ち受けていた。あたりまえのようだが、彼らは見慣れた「日本人の顔」ではない。もっと肌の色が濃く、顔のそれぞれのパーツが際立った、直感的に外国人とわかる彫りの深い顔が並んでいる。それを見てはじめて、もう日本にはいないという実感が湧いた。ここでは、自分が外国人なんだ。アイデンティティであり、まわりとの共通項でもあった「日本人らしい」見た目も、もうここではマイノリティだという事実に胸がドクンとした。小さいころに使っていたクレヨンの「はだいろ」も、ここでは肌色ではない。(19〜20ページより)

「はだいろ」の記述に著者ならではの視点が反映されているが、同じく印象的なのが、この直後に空港内で目にした光景について綴られた部分だ。

「お揃いの制服を身にまとったスタッフが数人で群れて清掃をしていたり、電動カートにまたがっていたり、はたまた床に座り込んだりしている......むらさき色の制服を着た彼ら」とは別に、ワイシャツを着て首からIDを下げたスタッフがいたのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

財新・中国製造業PMI、6月は50回復 新規受注増

ビジネス

マクロスコープ:賃金の地域格差「雪だるま式」、トラ

ビジネス

25年路線価は2.7%上昇、4年連続プラス 景気回

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中