最新記事

イギリス

歯科予約がイギリスで12ヶ月待ち 接着剤とヤスリの「DIY歯科治療」が問題に

2022年6月6日(月)16時15分
青葉やまと

だが、専門家らは横行するDIY治療に警鐘を鳴らす。自己流の対応で失敗したり、感染症にかかったりした場合、より長期の治療が必要になる。イギリス歯科医師会のエディー・クローチ会長は英『i』紙に対し、クラウン(歯のかぶせもの)を瞬間強力接着剤で付け直した人を何人も診てきたと語る。「なかには前後逆につけてしまい、あきらかに収まりがおかしくなり、口を閉じられなくなったという人々もみかけます。」

不公平な診療報酬、NHSに不信感

イギリスではパンデミックを受けて、2020年3月から複数回にわたり大規模なロックダウンを実施した。歯科医はエッセンシャル・ワーカーとして営業を継続することもできたが、それでも一時閉業を決める歯科医院が相次いだことなどで、待機リストの肥大化に至った。

輪をかけて障壁となったのが、かねてから議論のあったNHSの診療報酬制度だ。歯科医院がNHSと契約して治療にあたる場合、長時間を要する治療でも報酬が一律料金となるなど、制度上の不公平が生じている。NHSに対して不信感を抱く歯科医も多く、自費診療のみを受け付ける医院が増えるようになった。

なお、症状が深刻な患者のため、NHSは緊急予約の制度を用意している。だが、受付枠には限界があり、治療を必要とするすべての人々が即座に診察予約を獲得できるわけではない。

歯科医に暴言投げかける患者も

NHSの受け入れ医院が減ったことで、さらに他院も受け入れを停止する負の連鎖が起きた。患者の質が悪化しているためだ。歯痛で何ヶ月も満足に眠れていない患者のなかには、歯科医に対して暴言を吐いたり暴力的な態度に出たりする人々もいるという。

イギリス歯科協会によると、NHSの対応終了に踏み切った歯科医院の数は、昨年だけで実に2000を超える。この道38年の熟練歯科医は『i』紙に対し、NHSの将来に「いっそう悲観的」になっていると吐露した。

イギリス政府は歯科診療費用として、NHSに5000万ポンド(約82億円)の追加予算をすでに投入している。だがイギリス歯科協会は、これでも将来にわたり十分な診療体制を提供するのには十分でないと憂慮している。混乱は今後も尾を引きそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中