最新記事

米中関係

バイデンは中露分断のチャンスをふいにした

Is Biden Missing a Chance to Engage China?

2022年5月24日(火)19時33分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

ホワイトハウスの公式声明によれば、サリバンと楊は、「地域の安全保障問題と核不拡散に焦点を当てた」ほか、ウクライナ戦争にも言及したという。しかし中国側からは、両者の対話は、伝えられているより厳しいものだったと示唆する声明が発表された。とりわけ、米国はバイデンの訪問を利用し、台湾問題で中国との対立姿勢を強めている、と中国側は感じているという。

楊はサリバンとの会談で、「米国側が台湾のカードにこだわり、どんどん間違った道を進めば、間違いなく危険な状況に陥る」と発言している。

ロシアのウクライナ侵攻以降、バイデン政権の中国に対するメッセージはおおむね、「プーチンのウクライナ攻撃を物質的に支援すべきではない」という警告に限定されている。そして米国の政府高官は、中国からロシアに向けた明確な軍事的・経済的支援は見られないと認めている。

ロシア科学アカデミーを率いるアレクサンダー・セルゲーエフは4月、中国はこれまでの「素晴らしい協力」をいまは控えているという不満を口にした。中国の金融サービスネットワーク銀聯(ぎんれん)も、ロシアの銀行との交渉を中断している。

だがバイデン政権から何かハイレベルの提案をしようという姿勢は見られない。それどころか、アメリカの対中政策の行方をほぼ握っているのは、米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表のようだ。バイデンの東アジア歴訪にも随行している彼女は、政権発足後1年半をかけて、まだトランプが科した対中追加関税を吟味しているという。

バイデンが日本で発表したIPEFも、アジア経済を牛耳ろうとする中国に対抗するものだが、これで東アジアにおける力関係が大きく変わるのか、一部の専門家は疑問視する。もっともバイデン政権は、中国をさらに刺激しないようこの枠組みから台湾を外した。これは注目に値する。

中国はひたすら、EUのジョセップ・ボレル外相が「親ロシアだが中立」の外交姿勢を続けている。アメリカの元外交官は、中国と新たな対話を始めて報われるチャンスは25%ぐらいだろうと言う。だがそれ以外の策は対立を深めるものばかりだとすれば、中国が困っているという新たな戦略環境をチャンスに生かさないのは間違いだろう。

(翻訳:ガリレオほか)

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キンバリークラーク、「タイレノール」メーカーを40

ビジネス

米テスラの欧州販売台数、10月に急減 北欧・スペイ

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げ急がず=シカゴ連

ビジネス

10月米ISM製造業景気指数、8カ月連続50割れ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中