最新記事

経済制裁

NY高級マンション所有者はロシア人だらけだった...オリガルヒの栄華に迫る当局

OLIGARCHS IN NEW YORK

2022年4月20日(水)17時09分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

マレーシアの資産家でハリウッドの映画製作会社の共同創業者ジョー・ロウも、そんな購入者の1人だ。ロウはその後、政府系ファンドの資金を不正流用し、当時の首相の義理の息子に代わりマネーロンダリングを行った罪で起訴された(資金の一部はレオナルド・ディカプリオ主演作の製作費やパリス・ヒルトンとのパーティー費用に充てられた)。

NYTによると、タイム・ワーナー・センターの取引には、ロシアのオリガルヒであるビタリー・マルキンも関わっていた。マルキンは銀行業を営んでいた96年に、アンゴラ政府の対ロシア債務50億ドルの削減交渉に関わり、当時のアンゴラ大統領らと共に莫大な仲介料を手にした。この取引は「アフリカにおける政府ぐるみの略奪行為の象徴になった」と、NYTは指摘する。

同紙のスクープから程なくして、米財務省傘下の金融犯罪取り締まりネットワークは「地理限定命令(GTO)」を発動した。マンハッタンで300万ドル以上、マイアミで100万ドル以上の住宅不動産取引が全額現金で行われる場合は、権限保険会社に取引当事者(ダミー会社であることが多い)の身元開示を義務付ける措置だ。

これにより不動産取引を装ったマネーロンダリングの取り締まりが大きく前進するかと思われたが、GTOには抜け穴が多いと専門家は指摘する。そもそも買い主が保険加入を断念すれば、このルールに引っ掛からずに済む。法執行当局では、GTOはあくまで「情報収集のプロセス」と見なされていると、TIのカルマンは指摘する。

マネロン取り締まり強化を掲げるバイデン

しかし21年1月に施行されたマネーロンダリング規制法(AMLA)は、アメリカで設立された全ての法人に実質所有者の開示を義務付けている。また、この情報に基づき、金融犯罪取り締まりネットワークは非公開の登記簿を作成し、規制当局と法執行当局、そして一部の金融機関が参照することになった。

バイデンは就任当初から、マネーロンダリングの取り締まり強化を優先課題に掲げてきた。バイデン政権が発表した、連邦政府の汚職を取り締まる包括的な戦略にも、不動産取引が対象となることが明記されている。さらに、銀行秘密法を拡大適用して、不動産取引関係者にマネーロンダリング防止策を義務付ける可能性も出てきた。

「(不動産取引の)真の当事者を明らかにするシステムが初めて確立される」と、上院小委員会の元主任顧問のビーンは期待を込める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏とガザ・イラン

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中