最新記事

日ロ関係

ロシアに翻弄される漁業の町、根室に再び試練 サケ・マス交渉、さらにサンマ漁にも暗雲が

2022年4月18日(月)09時31分

市内で鮮魚店を経営する日沼茂人さん(71)はかつてカニを捕っていたが、旧ソ連が1976年に200カイリ漁業専管水域を設定して漁ができなくなり、漁師をやめた。2015年にロシア200カイリ内でサケ・マス流し網漁が禁止されると、特に紅サケを売ることができなくなり店の売り上げに影響が出た。

サンマ漁にも暗雲が

「一番懸念するのは4つの交渉すべてがだめになること」と話す日沼さんは、「新型コロナ(ウイルスの流行)が2年続き、第7波が来るか来ないかというときにウクライナの問題が発生した。毎日テレビでニュースを見ているが、どうなるのだろうと思っている」と語る。

サケ・マス漁のシーズンは6月まで。日沼さんによると、交渉が妥結しないと漁師は1隻6000万─7000万円の収入を失う。日沼さんの店で扱うサケは1本およそ9000円で、1日50本売れるとしたらその売り上げがすべてなくなる。

1970年に4万5000人いた市の人口は、2万4000人まで減少した。ロシア側の漁業政策が変わるなどして漁獲量が減り、廃業する漁業関係者が増えて若者の働き口が減ったことが大きい。「漁業ができないと、ここに住むことができない、廃業になる。まもなく(人口は)2万人になる」と、旧ソ連に拿捕されたことがある飯作さんは言う。

飯作さんは日本に戻ってから漁を続け、漁業関係者の代表者としてモスクワの交渉の場に何度も出向いたが、ロシア海域で流し網漁が禁止されるとサケ・マスは採算が合わなくなった。2016年以降はサンマ漁に船を出している。

8月から始まる今年のサンマ漁のための交渉はウクライナ侵攻前にすでに妥結しているが、ロシア海域に入るための許可証がまだ発行されていないという。来シーズンの交渉も不透明だ。

「根室は漁業、水産が基幹産業なので、これがなかったら根室にいる価値がなくなる」と、飯作さんは言う。「文化もなくなる。栄えないところに文化はない」

(Daniel Leussink 取材協力:竹本能文、久保信博 編集:橋本浩、金昌蘭)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中