最新記事

韓国

韓国が世界最初の「エンデミック国」になる? 

2022年4月14日(木)15時35分
佐々木和義

韓国が世界最初の「エンデミック国」になるのか? 撮影:佐々木和義

<韓国の新型コロナウイルス感染者が急増する中、金富謙(キム・ブギョム)首相は「韓国はエンデミックに転換する世界最初の国になることを期待する」と述べた......>

2022年4月12日、韓国の新型コロナウイルス感染者が累計1563万5千人余となり、人口5161万人(22年3月推計人口)の30%を突破した。

専門家らが楽観視できない状況だとして警告を発するなか、金富謙(キム・ブギョム)首相が「韓国はエンデミックに転換する世界最初の国になることを期待する」と述べ、マスク着用義務の解除などソーシャル・ディスタンスを緩和する検討をはじめている。

「エンデミックにはendが入っているが、何かが終わる意味はない」

4月1日、米ウォールストリートが「韓国が最初のエンデミック国になるだろう」と報じると、金富謙首相がエンデミックへの移行を期待する発言を行った。

エンデミックは周期的に発生する風土病で、ギリシャ語に由来する。特定地域を意味するエン(en・英語のin) と人々を意味するデム(dem)を組み合わせた語で、特定地域で流行を繰り返す感染症を指している。エンデミックより広範囲におよぶ感染症をエピデミック、世界的な流行をパンデミックと呼んでいる。マラリアなどがエンデミックとされており、インフルエンザがエピデミックに分類されている。2020年1月、世界保険機構(WHO)が新型コロナウイルス感染症をエピデミックに分類した後、パンデミックに拡大した。

エンデミックは予測可能な範囲で広がることから社会機能に大きな支障をきたさないとされている。米国や欧州などで新型コロナウイルスが2022年にはパンデミックからエンデミックに移行するという考えが広がる一方、世界保険機構(WHO)は否定的で、慎重な姿勢を崩していない。

韓国でも保健福祉部の班長が「エンデミック宣言ができるかどうかは未知数で、当分は難しい」「エンデミックは予測可能な水準で患者が発生することを意味しており、世界的に新型コロナが小康状態に入らなければならない」などと首相の発言を牽制し、専門家らもエンデミックに移行する期待は時期尚早だと警告する。対外経済政策研究院のチャン・ヨンウク副研究委員は「エンデミックにはendが入っているが、何かが終わる意味はなく、実際はその反対」といい、「ある病気が消えずに特定地域内で続くか、周期的に発生して土着化する意味」だと指摘する。

エンデミックを念頭に置いた対応へ

しかし、政府は病院や医院の検査・治療体系の拡大、防疫規制の解除予告、隔離期間の短縮など、エンデミックを念頭に置いた動きを見せる。

筆者が韓国で通っている病院は、新型コロナウイルスを徹底的に遮断している。政府が防疫パスを解除した後も問診や体温チェックを行なって感染の可能性がある来院者の入館を制限し、入院病棟はPCR検査の陰性確認書を所持しない人の立ち入りを認めていない。疑わしきは排除する方針だが、政府は感染の疑いがある人と非感染者の接触を助長しかねない検討を進めている。

「『エンデミック』へ転換する世界初の国になることを期待する」

金首相がエンデミックに言及した直後の4月4日、韓国政府は規制緩和を行った。3月21日以降、8人となっていた私的会合の上限を10人に緩和し、飲食店などの営業時間を12時に延長した。300人以上のイベントや集会は関係部署の承認が必要だが、299人までは制限しない。4月4日から17日まで2週間の措置である。

金首相は「重症と死者を減らして医療システムを管理できるようになったら、ソーシャル・ディスタンスなどの防疫措置を改編する」とし、「コロナ患者が市内の病院や医院で不便なく対面診療を受けられる『エンデミック』へ転換する世界初の国になることを期待する」と述べた。

早ければ4月18日にも私的会合の人員制限や飲食店等の営業時間、300人以上の行事や集会の禁止など、あらゆる制限を解除したい考えを示している。また、屋内のマスク着用は「防疫最後の砦」として維持するが、屋外のマスク着用を解除する可能性を示唆した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中