最新記事

サイバー攻撃

ロシアのサイバー攻撃、ヨーロッパ全域の衛星モデムやドイツの風力発電2000基を監視不能に

2022年4月11日(月)18時00分
青葉やまと

徐々に解明される攻撃手法 地上設備をねらう

2月24日の攻撃から1ヶ月が経過し、その手法が少しずつ明らかになってきた。攻撃の難しい衛星本体を避け、モデムにねらいを定めたとみられる。

技術解説誌『ARSテクニカ』によると、ハッカーは攻撃の準備段階として、Viasat社が利用している通信衛星「KA-SAT」の管理用ネットワークに侵入した。本来であれば高いセキュリティで守られているはずの管理用ネットワークだが、高い安全性を確保するVPNネットワークの設定に一部誤りがあり、そこを突かれたという。

続いて攻撃者はこの管理用ネットワークを通じ、Viasatユーザーのモデムに対してソフトウェアの更新処理を実行した。各施設や家庭などで使用されている数万という数のモデムがこのアップデートを受け取り、自動的に更新処理を実行している。

ところがこの更新ソフトの正体は、モデムの動作に必要不可欠なデータを消去してしまう「ワイパー」だった。結果としてウクライナとヨーロッパの数万各所でモデムが使用不能となり、こうした施設では衛星との通信手段が絶たれてしまうこととなった。

ロシアによる攻撃が確実視

攻撃者の詳細は不明だが、侵攻当日に起きたサイバー攻撃という観点から、ロシアによるものだとの見方が濃厚だ。欧州当局の関係者はBBCに対し、「最終的にロシアによるものだったとすれば、サイバー空間での戦闘能力を使って軍事行動を支援するという、いかにも彼らがしそうだと我々が考えている内容とも非常によく一致する」と語った。

ウクライナ政府は、衛星通信を積極的に採用していることで知られる。2012年の最高議会選挙では、1万2000ヶ所の投票所を衛星網で結んで投票状況をモニタリングした実績をもつ。ロシア側としては、衛星通信網に頼るウクライナ政府と軍の通信を破断し、混乱に陥れようとした可能性がある。

ただ、蓋を開けてみればその影響は限定的だったようだ。BBCは「しかし欧米当局によると、全般的には大方の予想を超え、ウクライナがサイバー攻撃に強いことが証明された」と述べている。1月から行われている複数のサイバー攻撃を含め、欧米当局筋は「ウクライナの防衛網が非常によく持ちこたえたとみている」と評価している。

ウクライナのサイバー当局は、アメリカおよびイギリスの関連部局とも協調し、攻撃の全容解明と防衛にあたっている。サイバー攻撃で名の通るロシアだが、現在のところ著しい成果を挙げるには至っていないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:強気の孫氏、疑念深める市場 ソフト

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス

ワールド

中国の軍事動向に「重大な関心」、東アジア海域に艦船

ビジネス

BofA、顧客の資産運用で暗号資産の配分推奨へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中