最新記事

ウクライナ情勢

「夫は頭を撃たれ、切られ、拷問された」 キーウ近郊ブチャでの惨劇

2022年4月5日(火)18時08分

ロシア軍はブチャに入ると、住民に対して身元を明らかにし、書類を提示するよう求めたという。

タチアナさんは、チェチェン共和国出身と思われるロシア軍の兵士から「切り刻む」と脅されたという。この兵士がチェチェン出身だと分かった理由は説明しなかった。

4日後に解放されたが、夫は何日間か居所が分からなかった。だが、住居がある建物の地下の階段の吹き抜けに何体かの遺体があると知らされた。

「スニーカーとズボンで夫だと分かったの。ひどい切り傷を負っていて、冷たくなっていた」という。「近所の人がまだ夫の顔写真を持ってるのよ。頭を撃たれ、切られ、拷問されていた」──と語った。

ロイターが写真を確認したところ、顔や体に重い切創があった。弾丸による傷の有無は、確認できなかった。

タチアナさんは夫の遺体を取り戻し、近所の人たちと建物近くの庭に「犬に食べられない程度の深さに」埋めた。

タチアナさんの夫が発見された階段の吹き抜けにロイターの記者が行くと、まだ、別の遺体があった。住民が尊厳の印として遺体をベッド用シーツで覆っていた。

左目を撃たれた

女性の住民によると、すぐ近くの別の墓には男性2人の遺体が埋葬されている。2人はロシア軍に連行されたが、殺されるところは目撃していないという。遺体が発見されたとき、2人は左目を撃ち抜かれていた。墓の近くに集まった他の住民6人が女性の証言を裏付けた。

住民の1人は、遺体となった男性の1人が集合住宅の入居者で、ウクライナ軍の退役軍人だったと述べた。

ブチャは2月24日のロシアによるウクライナ侵攻直後、ロシア軍がチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を占領し、首都に向かって南下してきた際に占領された。

北西から侵攻してきたロシア軍は、ブチャとその近くのイルピン北部でウクライナ軍からの予想外に激しい抵抗に遭い、進軍を阻まれた。この地域は、ロシア軍がキエフの北方から撤退するまで、首都防衛戦で最も血生臭い戦闘が繰り広げられた場所だ。

ウクライナは2日、キエフ周辺の全地域を奪還し、ロシア侵攻後初めて首都圏を完全に掌握したと発表した。

3日のブチャは、道路に不発弾が散乱し、焼け落ちた戦車の近くではロケット弾が地面に突き刺さっていた。敷地内で地雷やミサイルが見つかり、壁にチョークで「地雷に注意」と書いた住民もいる。

住民のボロドミル・コパチョフさん(69)によると、ロシア軍はコパチョフさん宅の庭の隣にある空き地にロケットシステムを設置した。ロイターの記者がその場所を取材すると、弾薬の箱や使用済みの薬莢(やっきょう)が散乱していた。

コパチョフさんの33歳の娘と、そのボーイフレンド、友人の3人

は、ロシア軍が撤退する数日前に、パーティー用の紙リボンをロシア軍に向けて投げて射殺されたという。コパチョフさんの妻によると、兵士に危害を加えるつもりはなく、抵抗を示すためだったという。

コパチョフさんは「こんな目に遭うなんて、辛すぎる」と話した。この1カ月、家の敷地から出たことはない。「やつらは出合い頭に(人々を)撃っていた。『だれだ、なぜ外出している』と聞きもしなかった。ただ、撃っていたんだ」──。

(Simon Gardner記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中