最新記事

香港

「映画検閲法」に挑む新世代──90年代の香港映画ファンにこそ見てほしい

2022年4月22日(金)17時33分
クリスタル・チャウ

香港の文化的想像力

香港の文化的アイデンティティーをめぐる問題の根底には、それが政治的言説と切り離せないという事情がある。そう指摘するのは香港中文大学文化研究科の彭麗君教授だ。

彭は、香港の独立系映画の盛り上がりと並行して、香港ポップスのボーイズバンドやYouTubeの人気チャンネルの急成長を指摘し、「私たちが見ているのは文化のルネサンスだ」とも述べた。

この3月にイギリスで開催された香港映画祭のテーマは、香港の文化的遺産を取り戻し、堂々と主張し、その再生を祝うことだった。

かつて香港映画は「東アジア映画」というカテゴリーの下で上映されていて、「たいていは古典的で象徴的な作品だった」と、映画祭の共同代表を務めた映像作家の伍嘉良は言う。

「しかし今、私たちには別のジレンマがある。民主化運動を大きく取り上げないと、外国の人には香港映画と認めてもらえない」

だが今回選ばれた独立系の映画は、香港の物語を伝える多面的な努力の結晶であり、今年の映画祭で紹介された監督は皆、今でも活発に映画を撮っている。

「最高の作品は、しばしば最悪の事態から生まれるものだ」と、伍は言う。香港に戻った『少年』の製作チームは、スマホによる映像制作と若手育成を目指す新しいプロジェクトに取り組んでいる。

肯定的でありながら様式化された『少年』のラストシーンについて、任俠は「非難がましい雰囲気の終わり方にはしたくなかった」と説明する。

「非現実的でありながら、徹底的にリアルで、最後には希望がある」

映画の序盤で、少女YYはこう言われる。あんたがこの最悪な状況を受け入れられないからって、それだけで香港が変わると思うなよ、と。いや、変わる、きっと変われる。そう信じたい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「

ビジネス

バフェット氏、バークシャーCEOを年末に退任 後任

ビジネス

アングル:バフェット後も文化維持できるか、バークシ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中