最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ、和平交渉で中立化の安保体制を提案 ロシア軍はキエフ近郊の活動縮小へ

2022年3月30日(水)09時15分

ロシアのフォミン国防次官は29日、ウクライナのキエフとチェルニヒウ近郊での軍の展開を大幅に縮小することを決定したと明らかにした(2022年 ロイター)

ロシアのフォミン国防次官は29日、ウクライナの首都キエフと北部チェルニヒウ近郊における軍事活動を大幅に縮小すると発表した。停戦交渉が順調に進んでいる兆候を示唆した。

フォミン次官はトルコ・イスタンブールで同日開かれたウクライナとロシアの交渉終了後、「相互信頼を高め、さらなる交渉や合意書に署名するという最終的な目標達成に必要な条件を整えるため」、軍事活動を決定したと語った。また、ロシア側の交渉団がモスクワに戻った後、詳細を公表すると述べた。

ただ、ロシア軍が大規模な攻撃を展開しているウクライナ東部や南部については言及しなかった。

ロシア側の交渉責任者を務めるメジンスキー氏は、キエフ近郊における軍事活動縮小について、1カ月以上続く紛争解決に向けロシア政府が取るステップの1つと述べた。

もう一つのステップは、両国の外相が和平条約に署名した段階で、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談開催に合意することとした。

ウクライナの提案

ウクライナの交渉担当者は、29日の協議で安全保障と引き換えに中立化を提示したと述べた。ウクライナは軍事同盟に加わらず軍事基地も提供しないことになる。

メジンスキー氏は「近くこれら提案を検討し、プーチン大統領に報告する」と語った。

また、ウクライナからの要求には、ウクライナの欧州連合(EU)加盟にロシアが反対しないという提案も含まれるとした。

ウクライナ側によると、安全保障の体制は北大西洋条約機構(NATO)の集団防衛条項に似たものを想定し、こうした保障に加わる可能性がある国として、ロシア、米国、英国、ドイツ、イタリアのほか、イスラエル、カナダ、ポーランド、トルコなどを挙げた。

さらに、ロシアが2014年に併合したクリミアの地位について、15年間の協議期間を設ける提案も盛り込んだ。これにはウクライナの国民投票が必要になる。

ロシアが親ロ派の独立承認を要求する東部ドンバス地方については、協議を続けるという。

今回の交渉には、プーチン大統領に近いとして欧米が制裁措置の対象としたロシアの実業家、ロマン・アブラモビッチ氏も参加。ロシア側とウクライナ側の交渉団が長テーブルに対面して着席する中、アブラモビッチ氏はオブザーバー席の最前列に座っていた。

ロシア大統領府はこれまでに、アブラモビッチ氏がロシアとウクライナの初期の和平交渉に関与していたと表明。同氏は今月に入りウクライナ、ロシア、トルコ、イスラエルの間を行き来している。

ロシア政府は、アブラモビッチ氏は交渉に正式に関与しておらず、仲介者のような役割を果たしているとし、ウクライナ側もこれを承認しているとしている。

ウクライナのプリスタイコ駐英大使は英BBCに対し「アブラモビッチ氏が何を主張し、何を行っているのか把握していない。同氏は交渉団の一員ではない」と述べた。

アブラモビッチ氏の広報担当者からコメントは得られていない。

米「撤退でなく再配置」

米国防総省は29日、ロシアがキエフ周辺の拠点からごく少数の部隊を移動させ始めたと発表した。ただ、戦争からの撤退ではなく再配置だとした。

同省のカービー報道官が会見で、ここ1─2日で少数のロシア軍がキエフから移動したとの認識を示した上で「これは再配置であって、真の撤退ではない。ウクライナの他の地域に対する大規模な攻撃を監視する用意を整えるべきであり、キエフに対する脅威が去ったことを意味するものではない」と述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米労働市場にリスク、一段の利下げ正当化=フィラデル

ワールド

トランプ氏やエジプトなどの仲介国、ガザ停戦に関する

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏と17日会談 トマホーク

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦でエジプトの役割を称賛 和平実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中