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露骨な男尊女卑で逆転勝利した韓国「尹錫悦」新大統領は、トランプの劣化版

MISOGYNY PREVAILS IN SOUTH KOREA

2022年3月25日(金)18時00分
ネーサン・パク(弁護士、世宗研究所非常勤フェロー)

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ソウルで行われた不動産規制の遡及適用に抗議する集会 CHRIS JUNGーNURPHOTO/GETTY IMAGES

メディアが公平に報道していれば、こうしたスキャンダル攻撃が奏功することはなかっただろう。事実が明らかになればなるほど李の無実が証明され、非難されるべきは尹のほうだと分かるはずだった。検察は李を徹底的に調査したが、収賄の証拠は一切出てこなかった。

大庄洞開発を進めていた業者が電話で話した内容が録音で残されている。その業者は、李は宅地開発で地価が上昇するからトンネルや排水設備工事も要請してきたと不満を漏らし、李を「共産主義者」の「嫌な奴」と非難。一方の尹については、開発資金をめぐる違法融資を捜査で「もみ消してくれた」と話している。

最後のテレビ討論で李は尹に直接、こう呼び掛けた。「特別検察官を直ちに任命し、選挙で勝った者が犯罪に手を染めていた事実を検察官が突き止めた場合は、当選を辞退することにしよう」。尹は言葉に詰まっていたが、「『共に民主党』は捜査を隠蔽し、検察の捜査には応じないつもりか」と声を荒らげた。

こうした話は、メディアでそれなりに報道された。だが、韓国メディアは保守系が圧倒的に強く(新聞大手5社はいずれも保守系)、扱いは小さかった。

代わりに連日報道されていたのは、李の妻が職員に公務用のクレジットカードで飲食費を支払わせていたというようなゴシップばかりで、尹の妻が株価操作に関与して70万ドル以上の利益を不正に得ていたことなど、尹側のもっと大掛かりな疑惑は、たとえ報道されても大きな話題になることはなかった。

尹は富裕層への減税も約束

政治経験のない候補者が特定の層や現行の政策への不満を募らせた有権者の心をつかみ、僅差で勝利した。この点で、尹を韓国のドナルド・トランプに例える声もある。だが、この見方は尹を過大評価しすぎだ。

トランプは、欠点は多いものの、独特のカリスマ性を備え、熱狂的に崇拝されていた。この点に限れば、もっとトランプに似ているのは前大統領の朴槿恵だろう。彼女には、韓国の経済発展を成し遂げた功労者である朴正煕(パク・チョンヒ)の娘という切り札があった。しかし尹には、熱狂的なファンなどいない。

だがトランプと尹には別な共通項がある。どちらも富裕層への減税を約束し、女性の進出に危機感を抱く男たちの不満をあおり、自分に友好的なメディアを動員して別の現実をつくり出し、選挙に勝った。1人の政治家として見れば、尹はトランプの劣化版にすぎないが、選挙戦術が当たって僅差の勝利を手にした。

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