最新記事

国際情勢

プーチンと習近平が「国益を捨てて」暴走する原動力は、欧米への「承認欲求」

PUTIN AND XI’S IMPERIUM OF GRIEVANCE

2022年3月10日(木)17時24分
オービル・シェル(アジア協会米中関係センター所長)
習近平とプーチン

西側への恨みと自由と民主主義への嫌悪が2人を結び付ける MAXIM SHEMETOVーREUTERS

<ウクライナ侵攻も台湾併合の野心も、国益的には「損」なはず。それでも彼らが暴走する背景には「リスペクトされていない」という恨みと怒りがある>

ネットのニュースでロシアのウクライナ侵攻を知った私は、その衝撃も冷めやらぬうちにそれに追い打ちをかけるようなメールを受け取った。ニューヨークのカーネギーホールで行われるウィーン・フィルの公演のチケットを予約していたのだが、ロシアのプーチン大統領と親交があることで知られる指揮者のワレリー・ゲルギエフがこの公演から外されることになったというのだ。

ロシアが侵攻を開始するまでは西側が中国、ロシアと完全なデカップリング(経済・外交関係などの切り離し)に踏み切ることなどまず考えられなかった。だが「ゲルギエフ外し」が物語るように、中国とロシアが新たな「同盟」を結んだ今、中ロと西側との亀裂は広がり、文化交流から貿易まであらゆるものが切り離されようとしている。

ウクライナ侵攻以前は、EU、特にドイツがロシアの天然ガスという輸血針を引き抜くことなどないとみられていた。大量の「血液」を送り込むパイプライン、ノルドストリーム2を手放すはずがない、と。アメリカも安価な中国製品への依存を断ち切れるはずがないと考えられていた。

グローバル化の最盛期、「ウィンウィンの関係」で世界中が豊かになれるという楽観論が幅を利かせていた時代には、グローバルなサプライチェーンが人類に限りない恩恵を与えると信じて疑わなかった。だがプーチンがウクライナ侵攻を命じ、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が台湾併合による国家再統一を誓うなか、国際秩序は揺らぎ、市場は大混乱に陥り、緊張緩和に役立つはずの文化交流まで断ち切られようとしている。

プーチンと習の重要な共通点が

一体何がこの予期せぬ危険な脱線事故を引き起こしたのか。なぜプーチンはロシアの国益をかなぐり捨てて、かつての兄弟国を侵略したのか。なぜ習は、自国民が成し遂げた奇跡の経済成長を犠牲にしてまで、小さな島国の奪取に血道を上げるのか。各国経済が切り離し難く結ばれている今、一体何のために、この2人の現代の「専制君主」はこれほど多くの主要国を遠ざけてまで自滅の道を突き進むのか。

まず言えるのは、独裁者は政治的なチェック&バランス(抑制と均衡)に縛られず、好き勝手に振る舞えるということだ。その病的な認知のゆがみが意思決定に影響を及ぼしても、誰も止められない。プーチンと習は出自も性格も異なるが、重要な共通点がある。情緒不安定かつ偏執的で、西側の「大国」に自国が虐げられてきたという被害妄想じみた歴史観に凝り固まっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協

ビジネス

円安進行、何人かの委員が「物価上振れにつながりやす

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38

ワールド

英、農業相続税の非課税枠引き上げ 業界反発受け修正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中