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ウクライナ侵攻

ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ

Shocking Lessons U.S. Military Leaders Learned by Watching Putin's Invasion

2022年3月3日(木)18時56分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月26日に公開した動画で、ロシア軍のキエフ侵入は阻止され、首都を迅速に陥落させて傀儡政権を打ち立てるというロシアの作戦は失敗したと戦況報告をした。「キエフの本格的な戦闘は続行中だ」と、ゼレンスキーは述べ、「私たちは勝利する」と宣言した。

装備の数では圧倒的な差があるようだが、ロシア軍とウクライナ軍の犠牲者の数を比べると、ロシアの圧勝を許さない実態が見えてくる。米情報筋は、戦闘が始まってから3日後に、ロシア軍は1日に約1000人の死傷者を出していると述べた。ウクライナ軍もほぼ同程度の死者を出しており、最前線での地上戦の凄まじさをうかがわせる。ウクライナ外務省の27日の発表によれば、ロシア兵4300人が殺され、200人余りが捕虜となった。米情報機関によると、ロシア軍からは戦闘開始から数日で脱走兵が出始め、戦わずに降伏する部隊が出ていることも報告されている。

「2003年にイラクに侵攻した米軍が3時間でやってのけたことを、ロシア軍は3日掛けても達成できていない」と、米空軍の退役将校はやや大げさに話した。この退役将校によれば、侵攻開始後の3日間にロシアが狙いをつけた照準点の数は、イラク空爆開始時に米軍が狙いをつけた照準点(3200カ所余り)の4分の1にすぎない。米情報機関の初期分析では、ロシア軍は1万1000個の爆弾とミサイルを撃ち、うち照準点に命中したのは820個で、命中率は7%程度だった(2003年の米軍のイラク侵攻では80%を超えた)。

「ゾッとするほどお粗末」

ロシア軍の命中率の低さでは「一連の攻撃による相乗効果が得らない」と、退役将校は見る。例えば防空システムを破壊するには、ミサイル発射装置と早期警戒システムを結ぶ通信網を攻撃しなければならないが、「ロシア軍はばらばらの攻撃に終始しているようだ」と、彼は話す。「連携のとれた攻撃は、彼らには複雑すぎて実施できないのだろう」

別の退役将校は、イラクの首都バグダッドを集中的に攻撃し、イラクの政権と指令系統を回復不能な大混乱に陥れた米軍の「衝撃と畏怖」作戦をもじって、ロシアの作戦は「衝撃とゾッとするほどお粗末」作戦だと冗談交じりに言う。

ロシアのプーチン大統領は27日、核抑止部隊に「戦闘任務の特別態勢」に入るよう命じた。西側観測筋の解釈では、これは核戦争に対する備えを一段と引き上げることを意味する。プーチンは、警戒レベル引き上げをNATOの「攻撃的な声明」への対応だと述べており、より厳密に解釈すれば、ロシアの軍事作戦が失敗した場合に備え、考え得るあらゆるNATOの介入を事前に封じるため、プーチンは核をちらつかせたのだろう。

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