最新記事

ウクライナ侵攻

ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ

Shocking Lessons U.S. Military Leaders Learned by Watching Putin's Invasion

2022年3月3日(木)18時56分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

ロシア政府は、戦争の人的側面(および国民国家の強さの人的側面)を無視する代償として、ハードウェアへの投資を続けている。また、情報化時代における成功は、たとえそれが軍事的成功であっても、教育、オープンな構想、さらには自由が要求されるという現実をロシアの指導者たちは無視してきた。

「権力を維持したい独裁者は決して、配下の軍指導者に多くの技能を教えようとはしない」と、前出の退役陸軍大将は本誌へのメールで書いている。サダム・フセインやプーチンのような指導者は、部下の軍人があまりにも優秀であるとクーデターを起こす可能性が高まると見なすからだ。

アメリカの軍事アナリストや専門家は、ロシアによるウクライナ侵攻のこれまでの展開を見ながら、いくつかの教訓を抽出した。2月24日の現地時間午前4時頃、ロシアは主に4方向から攻撃を仕掛けた。ウクライナの首都にして最大の都市(人口約250万人)のキエフを攻撃する部隊は二手に分かれ、70マイル(約113キロ)北にあるベラルーシ領とさらにその東側のロシア領から進軍した。

第2の部隊は、ロシア国境から20マイルも離れていないウクライナ第2の都市ハリコフ(人口140万人)を急襲した。そして、第3の部隊はロシアが占領したクリミアと南の黒海からウクライナに入り、ウクライナ第3の都市オデッサ(人口100万人)を東から狙った。第4部隊は東からルガンスクを西に突き進み、親ロシア派が支配するドンバス地域から攻め込んだ。

ukrinemap.jpeg
Googleマップ


物量だけの大攻勢

陸の侵攻と同時に、ロシアのミサイル160発が空、陸、海から標的を攻撃した。攻撃にはロシア爆撃機と戦闘機約80機が同行し、2度に渡る大攻勢をかけた。米情報筋や現地からの報告によると、最初の24時間で約400回の攻撃を行い、15の司令部、18の防空施設、11の飛行場、6つの軍事基地を攻撃したという。

圧倒的な攻撃ではなかった。だが欧米のアナリストの多くは、ロシアとしては地上軍が首都を占領し、政府を転覆させるための道を開くだけでよかったとみている。特に初日の攻撃では、ロシア空軍とミサイル部隊のごく一部しか動員されていないことからすると、追加の攻撃が行われるはずだ。

24日の終わりまでに、ロシアの地上部隊は短距離砲撃とミサイル攻撃でみずからを援護しながらウクライナに進駐した。ロシアの特殊部隊と破壊工作員は、制服と私服の両方でキエフの市街に姿を現した。キエフの北西にあるホストメル空港には、地上軍に先駆けて落下傘部隊が降下した。

最も侵攻が進んだのは、ウクライナの北東端、ロシア最西端のベルゴロドからキエフに至る一直線上のルートだった。首都攻撃をめざす第2のロシア軍部隊は、キエフから約200マイル(約320キロ)の地点から出発していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中