最新記事

ロシア

孤立したロシア兵、戦車を120万円でウクライナに譲る

2022年3月31日(木)17時30分
青葉やまと

孤立したロシア兵が、ウクライナの呼びかけに応じて降伏した Facebook-Victor Andrusiv

<仲間に見捨てられたロシア兵が報酬120万円を受け入れ、戦車を差し出して投降。ウクライナはほかにも、身の安全と報酬を約束した説得戦略を展開している>

孤立したロシア兵が、ウクライナの呼びかけに応じて降伏した。戦車と自身の身柄を差し出し、代償として120万円の報酬とウクライナ市民権の申請権を手にする。ウクライナのビクトル・アンドルシフ内務大臣がFacebookへの投稿を通じて明かし、米ニューヨーク・ポスト紙英デイリー・メール紙などが報じた。

兵士は地面に腹ばいになって降伏姿勢をとり、駆けつけた特殊部隊に身柄を確保された。アンドルシフ内務大臣によるとこの兵士は戦争終結までのあいだ囚人として扱われるが、「TV、電話、キッチンとシャワーのある快適な環境」が用意される。終結後には報酬1万ドル(約120万円)が支払われ、望むならばウクライナ市民権を申請する権利が与えられる。

アンドルシフ氏はこの兵士の話として、「(ロシア軍に)食糧はほぼ残っておらず、軍の指揮系統はカオス状態であり、存在しないも同然の状態となっている。戦意喪失は驚くべきレベルだ」との内情を明かした。同じ戦車に乗っていたほかの戦闘員も引き上げてしまい、もはやひとりで戦う理由はないと考えて降伏に至ったという。


降伏の合言葉は「ミリオン!」

このロシア兵はウクライナ警察とSMSで連絡を取り合い、落ち合う場所と戦車の引き渡し方法を事前に合意していた。ロシア軍の通信網は破綻しており、本来は軍用の暗号化通信を用いるべき場面で個人の携帯電話を用いて連絡を取り合っている。使われているのは、ウクライナで発行された携帯電話番号だ。

ウクライナの国家警察は、ここに目をつけた。兵士個人個人にSMSを送信し、警察に自首すれば捕虜待遇を保証し1万ドルの報酬を支払うと呼びかけている。今回身柄を確保されたロシア兵も、これに反応したものだ。特殊部隊はドローンで周辺を警戒しながらポイントに向かい、ロシア側の奇襲作戦ではないことを確認したうえで兵士を確保した。

SMSのほかにもウクライナ側は、降伏の手順を説明した文書を配布している。文書によると降伏の意思のあるロシア兵は、はじめに武器を捨て、次に直立姿勢をとり、続いて両手を挙げるまたは白旗を掲げると定めている。

ここまでは投降の動作として一般的だが、興味深いのはこれらに続く最後の手順だ。英タイムズ紙によると、文書は最後の手順として「ミリオン!」と叫ぶよう求めている。これは、ロシアルーブル建てでの補償額に由来する符丁だ。ロシア兵はこのワードを叫ぶことで、ウクライナ側が提示する補償額と捕虜待遇への同意を意思表示することができる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中