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ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と、「新・核戦争」計画の中身

CRISIS COULD TURN NUCLEAR

2022年2月26日(土)13時33分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)、マーク・アンバインダー(ジャーナリスト)

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ミズーリ州で行われた米空軍の競技会で、空対地用スタンドオフミサイルのステルス爆撃機への装塡の準備をする兵士 JOEL PFIESTERーU.S. AIR FORCE

このカテゴリーにおける最強の通常兵器は、統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)だ。1000〜2000キロ以上をひそかに移動でき、たいていの標的であればほぼ全てを破壊できる。

空軍と海軍はJASSM1万発の購入を計画しており、現在はB1爆撃機にのみ配備されているが、最終的には全ての戦闘機がこの兵器を搭載することになっている。

空軍の専門家によれば、核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させるものだ。

サイバー戦力の重要性

核兵器や通常兵器の背後には、サイバー兵器や宇宙兵器など、数値化できない兵器や技術が追加されている。10年版の「核態勢の見直し」でサイバー領域の核戦争計画における役割が拡大され、18年の「国家サイバー戦略」ではサイバー抑止が戦略的抑止力の一部として正式に追加された。

これは米軍の指揮系統を保護する防衛の手段と考えられがちだが、今や核戦争計画に組み込まれ、攻撃オプションとして核および通常兵器と同等の存在になっている。

「今後の課題は、こうした兵器がいかにして核兵器を補強し、核に代わる存在になり得るかを理解することだ」と前出の戦略軍元幹部は言う。「核兵器の数は軍縮条約によって制限され、核戦力の3本柱の構成は将来も基本的に変わらない。だが抑止力の非核要素の進歩がもたらす影響は、その実態が広く理解されないまま増大していく危険がある」

1961年9月、当時のジョン・F・ケネディ大統領は核戦争計画の詳しい説明を受けて愕然とした。それは「オール・オア・ナッシング」の闘いであり、最善のシナリオでも死者は数億人という予測だった。ケネディは戦略空軍司令部に、もっと多くの選択肢、特に民間人の被害を減らす方法を考えるよう求めた。

以来50年かけて、核兵器そのものが抑止力だという発想を捨て、先制攻撃を考えている敵がひるむほどの損害を核以外の手段で与えるための新たな戦争計画が作成された。

デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない。

一方、即応性と柔軟性の重視にも一定のリスクが潜む。互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる。

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