最新記事

ミャンマー

政変後の無法状態が「ビジネスチャンス」に...麻薬の泥沼に沈むミャンマー

Myanmar's Drug Surge

2022年2月8日(火)17時44分
セバスチャン・ストランジオ
メタンフェタミン

インドネシアへもミャンマーから大量のメタンフェタミンが(昨年5月) DASRIL ROSZANDIーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<国民を苦しめる政変もコロナ禍も、麻薬組織にとっては恩恵となる。ミャンマー国内の混迷が長引けば、さらに麻薬の生産が増える恐れも>

昨年2月のクーデター以降、政治的混乱と情勢不安が続くミャンマーだが、それが麻薬密売組織には恩恵となっているようだ。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告によれば、クーデター以降、麻薬の生産と密輸が急増しているという。

UNODCによると、ラオス、タイ、ミャンマーの当局は今年1月だけで覚醒剤の一種であるメタンフェタミンの錠剤9000万錠、結晶4.4トンを押収。その大部分が複数の国と隣接するミャンマー北東部のシャン州で生産されたものだという。「ミャンマー北部では昨年、以前から盛んなメタンフェタミンの生産に拍車が掛かり、鈍化する兆しが見えない」とジェレミー・ダグラスUNODC東南アジア地域代表は指摘する。

違法生産のほとんどはシャン州に集中する。穴やくぼみだらけで起伏の激しい地形、州当局の管轄地域が分断され連携しにくい状況、激しい紛争が災いし、同州は長年、麻薬生産の温床となってきた。

東南アジアの各国政府はシャン州の丘陵地帯からのメタンフェタミンなど合成麻薬の流入阻止にクーデター前から苦戦していた。2019年にアジアの麻薬取締当局が押収したメタンフェタミンは過去最多の139トンで、18年の127トン、17年の82.5トンを上回った。20年にはさらに記録を更新し170トンに達した。

こうした「ブーム」の一因はコロナ禍による供給過剰だ。UNODCによれば、コロナ禍の影響で東アジアと東南アジアではメタンフェタミンの価格が10年間で最低の水準に下落している。一方、密売組織も工夫を凝らしている。彼らは最近、入手しにくい「前駆物質」(メタンフェタミンの原料になる化合物)を製造するのに必要な「前・前駆物質」の製造法を編み出した。

「ビジネス拡大」の好機

そこへ昨年2月にクーデターが発生。民主派勢力への暴力的弾圧と相次ぐストによる経済活動の停止、市民の不服従運動、軍政に対する暴力的抵抗の拡大を招いた。

シャン州北部にはワ州連合軍(UWSA)のような有力武装勢力の支配地域と、国軍とつながる小規模民兵組織の支配地域が混在する。クーデターでの締め付けの緩みは、麻薬ビジネスを拡大し膨大な利益を手にする絶好の機会を生んでいる。急成長の最初の兆しは昨年7月。ラオス当局が史上最多となる覚醒剤系のアンフェタミンを1700万錠近く押収したのだ。20年の年間押収量に迫る数だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中