最新記事

中国

人民日報の歴史決議解説シリーズの一つに習近平の名がないことを以て「路線闘争」とする愚かさ

2021年12月26日(日)11時27分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
習近平

中国国家博物館(北京)にある習近平の肖像 Tingshu Wang-REUTERS

人民日報は12月8日から習近平による「歴史決議」の解説を連載している(現在13回目)。その中の一つに習近平の名前がなかったことを以て「路線闘争」だなどとする分析が日本で流行っている。真相を追跡する。

人民日報に習近平の名がなくトウ小平が9回出てくるので「路線闘争」と煽る日本メディア

12月24日の読売新聞は<トウ氏の名は9度登場、一度も出ない習氏の名...「静かな抵抗」暗に体制批判の文章>という見出しの報道をしている。

そこには概ね、以下のようなことが書いてある。

●中国の言論界を中心に、改革開放政策を進めたトウ小平を改めて評価する文章が出回っている。 習近平国家主席への権力集中が進む中、個人崇拝からの脱却や思想の解放を目指した3代前の最高指導者に光を当てることで現体制を逆説的に批判するという、「静かな抵抗」が広がっているようだ。

●注目を集めたのは、9日付の党機関紙・人民日報に掲載された論文だった。論文ではトウの名が9度にわたって登場した。その後2代の国家主席である 江沢民、胡錦濤両氏にも言及したのに、習氏の名は一度も出てこないという、最近の同紙上では異例の内容となった。

●習政権は体制批判を厳しく統制している。だが、中国に米国を猛追するほどの高速成長をもたらした改革開放を完全否定することはできない。文章を転載した知識人は「現体制に対する批判は直接は書かない。書けない。だが、文章を読めば、そこに込められたものがわかる」と説明し、政権の立場を逆手に取った「いまの時代の(反抗の)やり方の一つだ」と明かした。

●習政権は新たな業績として、成長の「速度」から「質」に重点を切り替え、貧富の格差を縮小する「共同富裕」に動き出している。トウに対する評価を巡る党内の攻防は、今後も続きそうだ。(以上、概要紹介。)

その2日前の12月22日、日経新聞の編集委員・中沢克二氏が、<習近平氏を無視、鄧小平路線絶賛する重鎮論文の不穏>という見出しで、同じトーンの分析を発表している。

その冒頭に以下のように書いている(太字強調は筆者)。

――中国で異変が起きている。揺るぎない権威を固めたはずだった総書記(国家主席)、習近平(シー・ジンピン)の名前を一度も挙げずに無視した不穏な論文が、共産党機関紙である人民日報に堂々と載ったのだ。奇妙なことに、これは「中央委員会第6回全体会議(6中全会)の精神を深く学ぶ」と題した文章なのである。

論文が習の代わりに最大限、評価したのは鄧小平だった。その名に9回も触れて「改革開放は共産党の偉大な覚醒」と絶賛し、「長期にわたる『左』の教条主義の束縛から人々の思想を解放した」と思想路線面での賛辞も惜しまない。

これは悲惨な文化大革命(1966~76年)までの毛沢東路線の誤りを痛烈に批判した表現だ。毛に対する個人崇拝への厳しい視線も感じるが、習への権力集中に絡む敏感な問題だけに「寸止め」になっている(引用ここまで)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪中銀副総裁、第2四半期CPI「歓迎すべき」 慎重

ビジネス

小売業販売6月は前年比+2.0%、食品値上げが押し

ワールド

ハリス氏、カリフォルニア州知事選不出馬表明 次期大

ワールド

原油先物4日続伸、トランプ関税リスクで供給懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中