最新記事

日本社会

なぜ母子家庭への生活保護だけが減っているのか?

2021年12月22日(水)14時15分
舞田敏彦(教育社会学者)
母子家庭イメージ画像

母子世帯をターゲットにして生活保護の削減が図られているのではないか、という疑念まで呼んでいる globalmoments/iStock.

<コロナ禍で最も痛手を被ったのはシングルマザー世帯のはずなのに、なぜか生活保護の受給世帯は減少傾向にある>

生活保護は生存権の最後の砦だが、受給世帯は時代と共に増えている。厚労省『被保護者調査』によると、1995年度の受給世帯数(月平均)は60万世帯ほどだったが、10年後の2005年度に100万世帯を超え、2014年度には160万世帯に達した。平成の「失われた20年」にかけて、生活に困窮する世帯が増えたためだ。

しかしそれ以降は横ばいだ。コロナ禍の昨年は増えたと思われるかもしれないが、2019年度は162万7724世帯、2020年度は162万9522世帯で微増にとどまる。困窮している人は間違いなく増えているはずだが、生活保護の受給世帯数はほとんど変わっていない。2019年7月から2021年7月までの受給世帯数のグラフ(月単位)を描くと、ほぼ真っ平になる。生活保護の機能不全が疑われる。

さらに詰めて見ていくと、驚くべき事実が分かる。生活保護の受給世帯数の推移を世帯類型別に見ると、近年明らかに減少傾向の世帯がある。母子世帯だ。1995年度の受給世帯数(月平均)を100とした指数のグラフを描くと、<図1>のようになる。受給世帯総数と、そのうちの母子世帯のカーブだ。母子世帯とは、母親と18歳未満の子からなる世帯をさす。

DATA211222-CHART01.jpg

2010年頃までは同じペースで増えていたが、母子世帯の保護受給世帯は2012年をピークに減少傾向にある。2012年度は11万4122世帯だったが、2020年度では7万5646世帯と3割以上減っている。2019年度は8万1015世帯だったので、コロナ禍においても6.7%減ったことになる。

コロナ禍でダメージを被ったのは女性だ。販売やサービス産業で非正規雇用女性の雇止めが激増し、困窮しているシングルマザーは増えているに違いない。常識的に考えれば母子世帯の保護受給世帯は増えているはずだが、現実はそうではなく横ばいどころか減少だ。減少ペースもコロナ前と変わっていない。

そもそも、この10年ほどで全体の傾向と乖離して、母子世帯の保護受給世帯だけが減少傾向にあるのも解せない。母子世帯をターゲットにして、生活保護の削減が図られているのではないか――。京都府の亀岡市では、こういう疑いを持って市民団体が調査に乗り出すとのことだ(京都新聞、2021年10月26日)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中