最新記事

動物

米コロラド州の山林火災、ビーバーの生息地だけ大火を免れていた

2021年11月17日(水)18時35分
青葉やまと

火災後の生態系の回復に関しても有益だ。湿地帯の草木は、焼け野原となった周囲よりも早く回復することができる。さらにオレゴン公共放送の『OPB』は、焼け跡の濁った水を浄化すると伝えている。淀んだ流れがビーバーのダムに注ぎ、灰など有害な成分が沈殿することで、清浄な川の水となってサケが棲む下流を潤しているという。

また、ダムは火災時以外でも、他の生物種にとっても欠かせない存在となっている。とくに乾燥した地域では、周囲の湿地帯は多くの動植物にとって貴重な棲処となる。ビーバはその個体数は少なくとも、生息域の他の生物群に大きな影響を与えていることから、生態系のバランス維持に重要な「キーストーン種」に位置付けられている。

「最も優秀な消防士」に、厄介者の一面も

ビーバーは過去にも、延焼を防ぐ自然界の消防士として脚光を浴びてきた。ナショナルジオグラフィック誌は昨年、「ビーバーはいかにしてアメリカで最も優秀な消防士となったか」と題する記事を掲載している。

記事のなかでカリフォルニア州立大学チャンネルアイランド校のエミリー・フェアファックス准教授(環境科学)は、野生動物が難を逃れるうえで重要な役割を果たしたと指摘している。

フェアファックス准教授たちがコロラド州の火災前後の状況を衛星写真を使って比較したところ、ダム周辺にできた湿地帯はその他の地区よりも、植物の生存率が3倍に上昇していることが判明した。ダムと湿地が火の勢いを弱めたほか、延焼を完全に食い止めたエリアもみられたという。

一方で、ビーバーは人間にとって必ずしも好ましい存在というわけではない。ダムによる道路の冠水などの被害も出ていることから、厄介者としてビーバーを嫌う動きも顕著だ。樹木や庭の保護などを目的として、アメリカでは毎年数千匹のビーバーが駆除されている。

フェアファックス准教授はナショナルジオグラフィック誌に対し、殺傷するのではなく人間への害が少ない地域へ移動させるなどで共存を図るべきだと提言している。

ビーバーは地形を湿地帯へと変貌させることから、自然界のエンジニアともいわれる。近年では各地で異常気象による山火事が増えており、ビーバーの防火帯が効果を発揮する機会はこれからも続きそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中