最新記事

インド

祝祭で人々が沐浴するインド・ヤムナー川、有害物質の泡で覆われた

2021年11月15日(月)15時40分
青葉やまと

下水整備は停滞、当面は泡を隠す対応

ヤムナー川は首都を潤す貴重な水源だが、産業排水や生活排水などに加え、田畑で使われる農薬も混入している。トーク番組の司会者として知られるラージャト・シャルマ氏は、自らが運営するニュースメディア『インディアTV』において、後手に回る政府の対応を非難した。下水道整備の計画は前々から持ち上がっているが、土地収用の問題などから大幅な遅れが出ているという。

当座の処置として地元当局は川沿いにバリケードを設置し、信者たちが川に近づかないよう妨害を試みている。警察は川に入らないよう警告した立て札を設置しているが、汚染を認めたわけではなく、あくまで「ヤムナー川は深く危険なため」との口実だ。

川を封鎖する代わりとしてデリー政府は、信者たちが安全な場所でチャットプージャの祭りに参加できるよう、人工の池を約800ヶ所にわたり整備した。しかし、聖なるヤムナー川で行う伝統に反するとして、地元議員を含む多くの信者が反発している。

悪化する水質への苦肉の策として、デリー水道公社はヤムナー川への散水を始めた。水を散布することで有害な泡を減らそうとの作戦だ。また、モーターボート15隻ほどを投入し、職員が泡をつついてつぶそうと躍起になっている。しかし、どちらの計画も実を結んでおらず、仮に泡が消えたところで川の汚染度が下がるわけではない。

インディペンデント紙は「しかしながら、川の有害な泡が生成される原因は根が深く、短期的な取り組みによって抑えることは難しいとみられる」との見解を示している。

人々の反応はさまざまだ。毎年繰り返される泡の大量発生に慣れ、沐浴の合間に泡と一緒に自撮りに勤しむ姿も散見される。一方、明らかに黒ずんだ水での沐浴にためらいをみせる信者も多い。本来の清浄な川で祈りを捧げるようになるまで、もう少し時間がかかりそうだ。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ウォン安と不動産価格上昇、過剰流動性だけが背景では

ビジネス

12月の豪消費者信頼感指数、悲観論が再び優勢 物価

ビジネス

ベトナムEVビンファスト、対インドネシア投資拡大へ

ワールド

EUメルコスルFTAに暗雲、仏伊が最終採決延期で結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中