最新記事

火山

人類の進化に影響を与えた超巨大噴火、スマトラ島のトバ火山の謎

2021年11月10日(水)20時36分
松岡由希子

世界最大級の超巨大噴火が起きたスマトラ島のトバ火山のイメージ YouTube

<地球環境に影響を与えうる超巨大噴火を生じさせるインドネシア・スマトラ島のトバ火山の噴火を分析した>

地球の気候に深刻な影響をもたらすおそれのある超巨大噴火を生じさせる火山は、世界に5~10か所あるとみられる。そのうちのひとつがインドネシア・スマトラ島のトバ火山だ。

トバ火山は、84万年前と7万5000年前の二度にわたり超巨大噴火を引き起こした。火山噴出物の量はいずれも約2800立方キロにのぼる。トバ火山は現在、スマトラ島バリサン山脈の巨大なカルデラ湖「トバ湖」になっており、湖中には火山島「サモシール島」が浮かぶ。

7万5000年前の二度の超巨大噴火は、世界最大級のもので、これによる火山灰はインドで5〜7センチにも及んだ。この大噴火によって、地球の気温は5℃低下し、長期におよぶ寒冷化は人類の進化に大きな影響を与えたとも言われる。

Toba_zoom.jpg

カルデラ湖「トバ湖」となったトバ火山 ランドサットによる画像

トバ火山の超巨大噴火で起きた、「悪循環」

スイス・ジュネーブ大学(UNIGE)と中国・北京大学の研究チームは、爆発的な火山噴火でよくみられる鉱物「ジルコン」に含まれるウラニウムと鉛のレベルを分析し、火山が超巨大噴火を起こすまでに要する時間を明らかにした。その研究成果は、2021年11月9日、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表されている。

これによると、84万年前と7万5000年前のトバ火山の超巨大噴火は、マグマ溜まり(地殻内でマグマが蓄積されている部分)へのマグマの急激な流入が原因で起こったのではない。

むしろマグマは静かに蓄積していた。140万年にわたるマグマの投入を経て84万年前に超巨大噴火が起こり、60万年のマグマの蓄積によって7万5000前に再び超巨大噴火が起こった。7万5000前の超巨大噴火では、マグマが蓄積して超巨大噴火を起こすまでの時間が半分未満になっている。

これは、マグマ溜まり周辺の大陸地殻の温度が徐々に上昇したことが原因とみられる。研究論文の筆頭著者で北京大学の劉平平博士は「これは噴火の『悪循環』だ。マグマが地殻を加熱するほど、マグマの冷却が遅くなり、マグマの蓄積速度が速まる」と解説する。その結果、超巨大噴火はやがてより頻繁に起こるようになるというわけだ。

研究チームは、ジルコンの内部でウラニウムが腐食して鉛になる性質に着目し、トバ湖周辺のジルコンの年代を調べた。この分析手法は、マグマ溜まりにどれくらいのマグマがすでに蓄積しているのかを推定することにも応用できる。

超巨大噴火が起これば、地球環境に影響を及ぼす

研究チームでは「トバ湖の下には約320立方キロのマグマがすでに蓄積している可能性がある」と推測。現在、1000年あたり約4.2立方キロのマグマがマグマ溜まりに蓄積しているとみられ、そのペースは安定している。

ひとたび超巨大噴火が起これば、人口密度の高いスマトラ島に極めて甚大な被害をもたらすだけでなく、地球環境にも影響を及ぼすおそれがある。研究論文の共同著者でジュネーブ大学のルカ・カリッチ教授は、過去2回のトバ火山と同等規模の超巨大噴火が起こる可能性について「約60万年のうちに起こるだろう」と予測している。

Volcano Eruptions Size Comparison (2021)


Toba Supervolcano

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中