最新記事

中国スパイ

「消えた」香港人著名活動家は中国が仕掛けたハニートラップの犠牲者か

Chinese Honey Trap Rumor Fuels Hong Kong Paranoia As Activist 'Disappears'

2021年11月10日(水)19時03分
デービッド・ブレナン

イギリスまで逃げても中国は追ってくる(写真右は2020年7月、ロンドンの中国大使館外で抗議するサイモン・チェン。元在香港英国総領事館職員だった彼は、中国公安に拘束され拷問された後、イギリスに政治亡命した) John Sibley-REUTERS

<イギリスまで逃げても誰が中国の手先かわからない。同胞への疑心暗鬼から一生逃れられない香港人の悲劇>

香港出身の弁護士で著名な民主活動家のケネス・ウォンは、イギリスで妻と幸せに暮らしているように見えた。突然、民主化を求める活動から姿を消すまでは。

彼は中国人の愛人と駆け落ちして、イギリス国内のどこかで新たな生活を始めた――それが表向きの説明だ。しかし彼に近い人々は、何かもっときな臭いものを感じている。安全な暮らしを求めて海外に逃れた香港市民の元に、中国共産党の手が伸びているのを知っているからだ。

ウォンは長年、イギリス国内における香港民主化運動の中心人物として活動してきた。彼をよく知る者たちは、ウォンは異なる活動家グループをまとめたり、政治的な人脈を利用して活動家たちのために動いたり、民主化運動の勢いを絶やさないようにしたりする上で、欠かせない存在だったと本誌に語った。

そのウォンが突然姿を消したことで、そうしたネットワークが損なわれてしまったのではないかという懸念の声があがっている。

ウォン自身は、活動家として自分が果たすべき役割は終わったと考えただけだと言っている。だから活動から身を引いて、大勢の新しい活動家たちに道を譲ることにしたのだと。

本誌の電話取材に対して彼は、「脅迫など一切受けていない。誰かから圧力をかけられたから活動をやめた訳ではない。単なる個人の選択の問題だ」と語った。「そろそろ活動から身を引いて、自分の本業に専念し、家族と過ごす時間を持つべきだと思った」

囁かれる「ハニートラップ疑惑」

それでも、彼をめぐるさまざまな噂は消えない。活動家たちが疑心暗鬼になっている背景には、海外に逃れた香港市民たちの新たな現実がある。彼らは自分たちが、反体制派の取り締まりに躍起になっている中国政府の「標的」であることを知っているため、常に危機感を抱いており、誰を信じればいいのか分からずにいるのだ。

イギリスで暮らしている複数の著名活動家は、中国政府による監視や嫌がらせを受けていると報告している。イギリスの政府や治安当局は、香港出身の活動家に対するそうした危険に気づくのが遅すぎると彼らは考えている。

海外に移住した香港市民の間に、恐怖と不信感が広まっている。

中国によるスパイ行為があると考えると、個人的な出来事も何かの策略に見えてくる。ウォンはこの1年の間に不倫をして妻の元を離れ、活動から手を引き、仲間の活動家とも会わなくなった。

活動家たちの間では、ウォンが中国のハニートラップにかかったのだと噂されている。ハニートラップとは古くからある諜報活動のテクニックで、工作員が標的を色仕掛けで誘惑し、脅迫するか寝返らせて情報を入手する手口だ。一部の活動家は、ウォンの新たなパートナー(不倫相手)は中国政府の工作員だとみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中