最新記事

健康

「亜鉛が風邪の予防や治療に役立つ可能性がある」との研究結果

2021年11月4日(木)15時56分
松岡由希子

亜鉛が風邪の症状を予防する...... danleap-iStock

<豪州の西シドニー大学の研究によって、亜鉛が風邪の症状を予防したり、有症期間を短縮できる可能性があることがわかった>

亜鉛が風邪やインフルエンザ様といった急性ウイルス性呼吸器感染症の症状を予防したり、有症期間を短縮できる可能性があることが明らかとなった。

豪州の西シドニー大学ジェニファー・ハンター博士らの研究チームは、計5446名の成人を被験者として米国、西欧、中国、豪州で実施された28件のランダム化比較試験(RCT)をメタ解析し、その研究成果を2021年11月2日、オープンアクセスジャーナル「BMJオープン」で発表した。

対象となったランダム化比較試験のうち4件は亜鉛の予防効果を検証したもので、17件はウイルス性呼吸器感染症と一致する症状の治療に関する研究であった。また、一般的な風邪を引き起こすヒトライノウイルス(HRV)に被験者を意図的にさらし、その予防や治療への亜鉛の効果などを検証するものも含まれている。

「亜鉛が欠乏する人にのみもたらされるものではない」

研究論文によると、トローチ剤や錠剤、シロップなどの経口用亜鉛またはジェル、スプレーといった経鼻投与用亜鉛は、偽薬(プラセボ)に比べて、軽症から中等症を発症する相対的リスクが32%低く、重症化するリスクも87%低かった。ただし、ヒトライノウイルスに意図的に感染した場合、亜鉛の予防効果に有意差は認められなかった。

経口用亜鉛または経鼻投与用亜鉛を治療に用いた場合、偽薬に比べて平均2日早く症状が回復し、ピークとなる3日目の症状の重症度が軽減された。亜鉛を用いた場合、1週間後も症状が継続する患者数は100人あたり19人減少すると推定される。ただし、亜鉛の剤型や用量、投与経路による臨床効果の違いについては明らかになっていない。

また、亜鉛は、悪心や口腔・鼻腔の炎症などの非重篤な有害事象のリスクが高まるものの、経口用亜鉛による銅欠乏や経鼻投与用亜鉛による嗅覚消失といった重篤な有害事象のリスクは低かった。

研究チームでは「ウイルス性呼吸器感染症の予防や治療への亜鉛の効果は、亜鉛が欠乏する人にのみもたらされるものではない」と考察している。たとえば、米空軍士官学校の士官候補生40名を対象とする2009年の研究結果や55~87歳の米国人55名を対象とした2007年の研究結果ではいずれも亜鉛が欠乏する人が被験者から除外されていた。

風邪の有症期間が短縮される可能性

ハンター博士は、一連の研究成果について「亜鉛には亜鉛欠乏を補う栄養補助食品以上の効果を持つ可能性があることを示すものだ」と評価。亜鉛によって風邪の有症期間が短縮され、ピーク時の2~4日目に重症度を軽減する可能性について言及し、「依然として世界的に問題となっている抗生物質の誤用に代わる手段となりうるだろう」と述べている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、香港の火災報道巡り外国メディア呼び出し 「虚

ワールド

26年ブラジル大統領選、ボルソナロ氏長男が「出馬へ

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中