最新記事

韓国

韓国の若者たちは、民族の悲願だったはずの「南北統一」に興味なし

A Weakening Consensus

2021年10月20日(水)18時40分
ディラン・ステント(ビクトリア大学ウェリントン校博士課程)

最大野党「国民の力」の李俊鍚(イ・ジュンソク)代表は36歳。彼は統一にはさほど熱心ではないらしい。今年7月には与野党代表のテレビ討論会で、統一を実現する唯一の現実的な道は韓国政府が朝鮮半島全体を統治することだと語り、北朝鮮の現体制の崩壊後に残された領土と国民を韓国が平和的に吸収する形が望ましいと付け加えた。李はまた、省庁再編の一環として南北交流の推進に当たる統一省の廃止まで提案した。

だが、少なくとも青瓦台(韓国大統領府)の左派は、正しい道は平和的な統一だというコンセンサスにこだわり、政府関係者は記者会見で南北関係が順調に前進していると繰り返してきた。しかし、彼らはその一方で、巡航ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル、新型のヘリコプターや戦闘機など新しい軍事技術を追求している。

こうした動きは、平和的な吸収型の解決から、政治レベルで複雑な駆け引きを可能にする「ヌェ・ジョン(心理戦、戦略的な戦い)」型の抑止力の向上へと、スタンスが変わる可能性を示唆している。軍事主導になれば、朝鮮半島の不統一は続くだろう。

左派の変化は、来年の大統領選に向けて与党「共に民主党」の公認候補に選出された李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が掲げる北朝鮮政策にも見られる。

李は、平壌が非核化の約束を破れば直ちに制裁を科すという条件付きの制裁緩和を支持すると示している。さらに、朝鮮半島に平和経済を構築して、開城工業団地の制裁解除を国連に働き掛けると約束したが、同じ民族であるというルーツは、もはや統一の合意形成の基盤にならないとも述べている。

211026P40_KKK_02.jpg

「共に民主党」の大統領選公認候補に選ばれた李在明 KIM HONG-JIーREUTERS

以前は政策が韓国世論をリード

10年前の左派は、対話を促して最終的に統一を実現するために、無条件の関与が必要であるという考え方を支持していた。

李在明の提案は、李明博や朴槿恵の時代のアプローチに通じるところもある。李明博の南北政策は原則を重んじ、厳しい条件付きだった。朴槿恵が統一は世界全体にとって「大成功」になるだろうと饒舌だったのも、統一は相互のやりとりであって条件を伴うという前提だった。もっともこれ以外の李在明の政策的立場は、文が失敗した政策の多くに似ている。

スコット・スナイダーとブラッド・グロッサーマンは共著『日韓アイデンティティー・クラッシュ』で次のように述べる。「北朝鮮に対する韓国の態度は、政府が南北関係について楽観的か、悲観的かによって大きく揺れ動いてきた。言い換えれば、政府の政策が韓国の世論をリードしてきたようなもので、政府が平壌との協力と対立のどちらを特徴とする政策を追求するかで流れが決まる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続落、ファーストリテが320円押し下

ビジネス

英GDP、5月は前月比-0.1% 予想外に2カ月連

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中