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独占取材

「中国封じ込め策には抜け穴がある」、パキスタン首相独占インタビュー

AMERICA CAN STILL BE A PARTNER

2021年10月7日(木)10時52分
トム・オコナー(本誌外交担当シニアライター)

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若き日にはクリケットのスター選手だったカーン(1985年) BOB MARTIN/GETTY IMAGES

――撤退によってアメリカの信用と影響力は落ちたと思うか。将来、この地域で混乱が生じた場合、各国は中国などを安全保障上のパートナーに選ぶのだろうか。

米大統領自身が認めているとおりで、アフガニスタンへの軍事介入はアメリカにとって、戦略的な重要性を欠いていた。だから手を引いたわけだ。しかしパキスタンもアメリカも、アフガニスタンが国際テロの温床になっては困る。だから、あの国の安定化に向けて協力する必要がある。まずは人道危機に対処し、経済の復興を支援すべきだ。

撤退時の混乱はひどかったから、アメリカ国内ではネガティブな受け止め方もあるだろう。しかしアメリカは自発的に撤退を選んだ。長い目で見れば、アメリカの国際的な信用が損なわれるとは思わない。

一方、中国がアフガニスタンに経済的支援を申し出れば、当然あの国は受け入れる。「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」と一体化し、中国と緊密な関係を結ぶ。そういう路線をタリバンは歓迎している。

しかし、アメリカも重要かつ積極的な役割を果たせるはずだ。人道支援や復興への貢献もあるし、アフガニスタンに潜むテロリストを封じ込める上での協力もある。ドーハでの和平協議でアメリカはタリバンと一定の関係を築いた。米軍撤退の際にはダイレクトに連携した。共通の利益と地域の安定のため、アメリカが新政府と協力する余地はある。

――パキスタンは20年前のように、今度もタリバン政権を承認するのか。そうだとして、どのような条件が整えば承認に踏み切るのか?

既にタリバンは「暫定政権」を樹立したし、いずれもっと恒久的な統治体制を発表するだろう。わが国としては、隣国を実効支配する勢力に積極的に関与し、経済の破綻や人道の危機を回避し、テロリストの復活を防ぐ以外の選択肢はない。

(理論的には)中央政府の統治が全国に及べば承認の条件は整う。しかし今回は、承認に関しては周辺諸国と足並みをそろえたい。

――いま国際社会が最も懸念しているのは、アフガニスタンの情勢不安に乗じて武装集団や分離独立派が他国への攻撃を企てる可能性だ。パキスタンもこうした懸念を共有しているか。そして対応策はあるのか。

アフガニスタンに潜み、あの国の現状に付け込んでいるテロ組織が多いのは事実で、わが国もその脅威を非常に懸念している。なかでもTTPは危険だ。彼らはアフガニスタンを拠点に、どこかの国の情報機関の支援を得て、わが国で何度もテロ攻撃を繰り返している。

わが国で働いている中国人に対する攻撃の大半は、TTPによるものだ。彼らは(中国からの分離独立を掲げるウイグル族の武装集団)東トルキスタンイスラム運動(ETIM)ともつながっているようだ。いずれにせよ、わが国はアフガニスタン当局と連携して、TTPを含むテロ組織の動きを阻止する。

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