最新記事

米軍事

中国「極超音速」兵器、迎撃不可能と大騒ぎすることの馬鹿らしさ

China’s “Hypersonic” Missile Test

2021年10月29日(金)12時35分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
中国宇宙開発用ロケット「長征」

今回の打ち上げに使われたとみられる宇宙開発用ロケット「長征」 Tingshu Wang-REUTERS

<中国が迎撃不可能な最新鋭ミサイルを開発したとの報道でパニックになれば、軍拡競争が激化するだけ>

中国の新型ミサイルをめぐって米国防関係者の間でちょっとした騒ぎが起きている。

問題のミサイルは、中国がこの夏に行った実験で「極超音速」で地球の低周回軌道を一周し、その後に核弾頭搭載可能な物体を切り離して、目標に向けて滑空させたと、10月中旬に英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が報じた。

このミサイルなら通常の弾道ミサイルのように北からだけでなく、東、西、南からもアメリカを狙える。つまり警戒レーダーを回避でき、ある米当局者に言わせれば、アメリカのミサイル防衛(MD)システムを「無力化」できる。

中国政府はこの報道を否定。民間の宇宙船の再利用技術を検証していたと説明した。

仮にFT紙の報道が事実で、中国の新型ミサイルがアメリカのMDシステムを無力化するとしても、それは大騒ぎするようなことだろうか。

中国の最新鋭ミサイルがあろうとなかろうと、今のアメリカのMDシステムは目を覆うほど無力だ。長距離ミサイルを迎撃できる唯一のシステムは「地上配備型ミッドコース防衛」(GMD)だが、今年8月に米ミサイル防衛局(MDA)が公開した資料によれば、19回の実験でGMDが模擬弾頭を撃ち落とせたのは12回。しかもGMDの実験は2019年3月以降実施されておらず、直近6回の実験中3回は失敗している。

さらにこれは国家機密でも何でもないが、GMDでは1度に1つの模擬弾頭を迎撃する実験しか行われていない。

MDを回避するもっと簡単な方法が

中国がアメリカのMDシステムを「無力化」したいなら、手っ取り早い方法がある。2つの重要な標的に向けて同時に2個の弾頭を(可能ならば1基のミサイルから)発射させるのだ。1個の弾頭が撃ち落とされても(それも確実ではない)、もう1個が標的を破壊できる可能性は高い。

もう1つの混乱の元もはっきりさせておこう。「極超音速」ミサイルは音速の5倍以上で飛ぶミサイルと定義されている。だが通常のICBMは音速の23倍で飛ぶ。かれこれ60年前から存在するICBMも極超音速なのだ。

アメリカ、ロシア、中国は本当の意味での新型の極超音速ミサイル、つまりほぼ迎撃不可能なミサイルの開発を目指している。その1つは核弾頭を搭載していないICBMになりそうだ。開発に成功すれば、米軍は「即時全地球攻撃」計画に活用する予定だ。

もう1つのタイプの極超音速ミサイルは滑空型で、終始大気圏内を飛ぶため、ある種の警戒レーダーを回避できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 6
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 8
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中