最新記事

スポーツ

インドネシア、バド国際大会19年ぶり優勝でも国旗掲揚されぬ屈辱 その理由とは──

2021年10月22日(金)17時50分
大塚智彦

またトマスカップでの優勝という機会に国旗が掲揚されなかった事態に対してLADIのデシー・ロスメリダ長官は18日、オンラインの会見で「表彰式で起きたことについてインドネシアの国民と大統領に深くお詫びする」と国民に謝罪した。

さらにザイヌディン・アマリ青年スポーツ相も「LADIが表明したように私自身からも心からのお詫びをしたい。母国にトマスカップの優勝カップを持ち帰るという幸せを壊す結果になってしまって申し訳ない」と謝罪した。

そのうえでザイヌディン大臣は「効果的なドーピング検査ができなかった原因を徹底的に調べて、問題がもしあれば責任をもって是正を図っていきたい」と今後の改善に前向きに取り組む姿勢を改めて表明した。

"東南アジア版オリンピック"でも同様の措置

インドネシアを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国と東ティモールが参加して2年に一度開催されている「東南アジア競技会(SEAゲーム)が2022年7月にベトナムのハノイで開催される。

この東南アジアのオリンピックと称される大会でもインドネシアとタイはWADAの処分により、大会では国旗の掲揚、使用ができないことになる。

SEAゲームは1959年に第1回大会がタイで開催されて以降、2年ごとにASEAN10カ国のもち回りで開催されている大会で、ハノイ大会は2021年11月に開催予定だったが、ASEAN各国でコロナ感染が依然として予断を許さない状況にあることから2022年7月開催に延期となった経緯がある。

インドネシアはこれまでSEAゲームで東京オリンピックでも活躍したバトミントンや重量挙げをはじめ、セパタクローやサッカーなどで熱戦を繰り広げ、メダル獲得や上位入賞を果たしている。

タイもサッカー、セパタクロー、ムエタイなどで常に上位入賞を果たし、メダル獲得競争でもシンガポールやインドネシアと常に争う域内のスポーツ大国だ。

タイとインドネシアという上位常連国が共に「国旗の使用禁止」という処分を受けたことで、2022年のSEAゲームでは大会の気運やタイ、インドネシア両国民の熱気にも水を差す可能性が指摘されている。

制裁解除への動きも

10月20日のインドネシア地元紙はインドネシアのLADI関係者が近くWADAと接触して、インドネシアに下された制裁処分の内容について詳細な説明を改めて求め、そのうえで制裁解除に向けた努力を進める方針だと伝えた。

インドネシアやタイのWADA規定違反はロシアのようなドーピング違反の組織的隠ぺいやデータ改ざんといった悪質な行為ではなく、単に規模や精度が不十分で規定に従った厳格なドーピング検査が実施できなかったことによるものとされている。

このためインドネシア、タイの関係当局は今後の検査体制の見直しと改善で、早期の制裁解除を働きかけ、国際大会での「国旗使用」への道を開く動きを活発化させるものとみられている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが

ビジネス

米FRBタカ派幹部、利下げに異議 FRB内の慎重論

ワールド

カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブルージェ

ビジネス

NY外為市場=ドル/円小動き、日米の金融政策にらみ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中