最新記事

法医学

ワクチン接種が進む中で「異状死」が急増、日本の「死因不明」社会の闇

2021年9月30日(木)21時08分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

問題はそれだけではない。都道府県によって、きちんと解剖までして死因を究明してくれる地域とそうでない地域に大きなばらつきがあることだ。例えば広島県は死因究明のための解剖率は1.2%で日本で最も少ない。逆に兵庫県では解剖率36.3%で日本で最も解剖率は高い。つまり、死ぬ場所によって、きちんと死因を究明してもらえるかどうかが変わる「格差」が存在している。

筆者は、そうした死因の格差を各地の法医学者に徹底取材をして浮き彫りにした『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社刊)を最近、上梓した。そこでは、死してなお私たちが直面する死の格差について迫っている。

死因究明の現場を見ると、残念ながら殺人などの見逃しや冤罪が起きてしまう実態や、日本の死因究明制度にまつわる数々の問題が浮き彫りになっており、全ての日本人にとって他人事ではない。その詳細は拙著に譲るが、本項では、そんな問題を抱える死因究明制度のある日本が直面した新型コロナへの対応についても触れておきたい。

筆者はコロナ死への対応について、死因究明のエキスパートである日本大学医学部法医学教室の奥田貴久教授に話を聞いた。奥田教授は、アメリカやカナダで死因究明制度を学んだ国際派の法医学者である。

感染が疑われる場合の対処

まず奥田教授に、日本で新型コロナウィルスに感染した遺体が発見されたらどういう扱いになるのかを聞いた。

「まず自宅で遺体が発見されると、110番通報されます。すると警察が現場に臨場し、検視を行います。警察は現場の状況など丁寧に調べ、警察医にもご遺体を見てもらって、その上で新型コロナ感染が疑われれば、新型コロナ感染の有無を検査します」

つまり、異状死体が自宅などで発見されれば、警察がPCR検査などを実施してその後の扱い方を決める。ただ明らかに事件性が疑われる場合は、新型コロナが陽性でも陰性でも、司法解剖を実施できる大学などの施設に遺体を搬送して、死因の究明が行われる。刑事事件にかかわる可能性があるため、公判などで証拠になる死因究明は不可欠だからだ。

「もちろん法医学会や厚生労働省などが出している新型コロナ対策のガイドラインに沿って、解剖は慎重に行われます」

ウイルス捕集効率の非常に高い医療従事者用のN95マスクなどを装着するなどして解剖が実施されることになる。

それ以外の遺体では、新型コロナ陽性であると判明すれば、「基本的には解剖が実施されないケースが多いでしょう」と、奥田教授は言う。確かに、別の法医学関係者も筆者の取材に、「PCR検査で、新型コロナ陽性だと分かり、犯罪性が低いと推測されたご遺体は解剖をしていない。警察のほうで調べて感染している遺体はもってこなかったので、こちらはコロナのことは何も心配せずに解剖をしていた」と筆者に語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統

ビジネス

中国市場、顧客需要などに対応できなければ地位維持は

ビジネス

IMF借款、上乗せ金利が中低所得国に重圧 債務危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中