最新記事

ビジネス

東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトの兆し

2021年9月7日(火)14時22分
斉藤誠(ニッセイ基礎研究所)
クアランプールのショッピング街

マレーシア、クアランプールのショッピング街(9月6日) Lim Huey Teng-REUTERS

<厳格な行動規制が奏功しつつある東南アジア。国によるバラつきも含めて現状を解説する>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年8月26日付)からの転載です。

1――新型コロナ感染がピークアウトの兆し

新規感染者数の推移新型コロナウイルス感染症は昨年、欧米諸国で猛威を奮ったのに対し、東南アジアでは比較的感染拡大が抑え込まれていた。しかし、今年に入ると、東南アジアでも新型コロナウイルスの感染状況が悪化し始め、6月中旬から感染ペースが加速した。ASEAN加盟全10カ国の1日あたりの新規感染者数は6月中旬の2万人台から8月前半の10万人台まで急速に増加し、ユーロ圏やインドを上回る勢いで感染が広がることとなった(図表1)。

nissei20210906195101.jpg

感染急拡大の背景には、規制疲れによる感染対策の不徹底や祭事期に伴う人流の増加などの要因もあるが、欧米に比べて東南アジアのワクチン接種が遅れるなか、感染力の強いデルタ株が猛威を振るい始めたことによる影響が大きいと考えられる。

しかし、各国が相次いで実施した厳格な行動規制が奏功して、足元では東南アジアの感染状況にピークアウトの兆しが見えつつある。

ASEAN5の新規感染者数の推移東南アジアのなかでもASEAN5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)の感染者数は多く、地域全体の9割強を占めているが、各国の感染状況は異なる。

nissei20210906195102.jpg

ASEAN5の1日の死亡者数の推移人口世界4位のインドネシアは7月中旬に1日の新規感染者数が5万人に達してピークアウトし、足元では1万人台まで減少してきている(図表2)。

nissei20210906195103a.jpeg

もっとも遅行指標である死亡者数は依然として多く、1日に1,000人以上の高水準で推移しており、厳しい状況にあることに変わりはない(図表3)。インドネシアの累計死亡者数はインドに続いてアジアで2番目に多く10万人を超えた。死亡者数の多さは感染拡大だけでなく、医療体制が脆弱であることも一因となっているとみられる。世界保健機関(WHO)によると、インドネシアの⼈⼝1万⼈あたりの医師数は4.7⼈であり、日本(24.8⼈)は勿論、マレーシア(15.4⼈)、タイ(9.2⼈)、ベトナム(8.3人)、フィリピン(6.0人)を下回っている。

人口100万人あたりの新規感染者数の推移また昨年はウイルスの封じ込めに成功した国として評価されたタイとベトナムはデルタ株の猛威にさらされる状況となっており、フィリピンとマレーシアにおいてもこれまでの感染の波を上回る勢いでウイルスが蔓延している。このうち、タイの足元の感染状況はピークアウトの兆しが見えつつあり、マレーシアもワクチン普及によって感染者数の増加ペースが緩やかになってきている。一方、フィリピンとベトナムは現在も感染拡大が加速しており、収束が見通せない状況にある。

nissei20210906195104.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ

ワールド

インド総選挙、首都などで6回目投票 猛暑で投票率低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中