最新記事

テロリスクは高まるか

アフガニスタンはなぜ混迷を続けるのか、その元凶を探る

THE ROOT OF THE CHAOS

2021年9月1日(水)11時30分
新谷恵司(東海大学平和戦略国際研究所客員教授)

それは、タリバンが復活した今、ますます主要な役割を演じている。レッシングの会ったムジャヒディンはアフガニスタン人だったが、この頃、アラブ諸国からは多くのアラブ人がソ連との戦いを「聖戦」と見なし、義勇兵として戦いにはせ参じていた。彼らもまた、ムジャヒディンと呼ばれる。彼らは米CIAの支援もあり、力を蓄えた。その中には、独自の軍事訓練基地を造るなどして、アルカイダを設立したサウジアラビア出身の富豪、ウサマ・ビンラディンもいた。

アラブ・イスラム世界におけるイスラム過激主義は深刻の度を増す一方であったが、ソ連が撤退するとアフガニスタン帰りのムジャヒディンたちが各国の腐敗した支配体制を狙う危険な存在となった。また、アルカイダはアメリカの権益を脅かす大規模テロを起こす存在へと成長していく。この流れの中で、パキスタン軍統合情報局(ISI)の支援により少人数で設立されたのがタリバン(神学生たちの意味)運動である。

アフガニスタンのイスラム化は非常に早く、預言者ムハンマドの死後ウンマ(イスラム帝国)の拡大に努めた正統カリフ(後継者)時代(632~661年)にその一部、そしてウマイヤ朝時代(661~750年)にはその全土が帝国の版図に収まっていた。

しかし、そこは民族も言語もイスラム教発祥の地アラビア半島とは異なる「辺境」であり、どちらかと言えば世俗的、かつ宗教とは直接関係のない伝統・習俗で暮らしてきた部族社会であった。例えば、女性の権利に関するものでいえば、顔と全身を覆う「ブルカ」を着用しなければならないといった教義は、聖典コーランにも預言者の言行録にも求めることのできない、いわば「ローカル・ルール」である。

ましてや、女性の教育や戸外での活動を禁じたり、強制的に結婚させたりするという、タリバンの支配下で予定されているとされる女性に対する虐待行為は、タリバンが実現しようとするところの「イスラム法による統治」では決して許されるものではない。

しかし、その主張が間違っていようといまいと、イスラムの名において行動すれば圧倒的な動員力が生まれるという現象が、前世紀の後半、とりわけ1980年代以降の中東・イスラム社会を席巻した。これに乗じてタリバンは急成長してきたし、アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)といった巨大なテロ組織が育っていくことになった。

英国型「分断統治」の典型

タリバン対国際社会という構図は、西欧社会対イスラム一般、ないしは対イスラム過激主義という深刻な対立の縮図である。

今、世界で起きているイスラムをめぐる問題の帰結、とりわけ欧米におけるイスラム教とイスラム世界への感じ方ないしはビジョンが、タリバンによる事実上のアフガニスタン支配を許すか許さないか、という問題に深く関わってくる。実際、8月26日にはタリバン以上に過激なISが自爆テロ攻撃を起こすという衝撃に世界は見舞われた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、「サハリン1」巡り米国と協議深める用意=外

ビジネス

ベン&ジェリーズ共同創業者が退任、親会社ユニリーバ

ビジネス

NXHD、通期業績予想を再び下方修正 日通の希望退

ワールド

訪日外国人、16.9%増で8月として初の300万人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中