最新記事

バイデン政権

アフガニスタン撤退は、バイデンの「英断」だった

Ending the Forever War

2021年8月26日(木)11時01分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)
タリバン兵

カブールの国際空港に向かう女性を殴ろうとするタリバン兵(8月18日) JIM HUYLEBROEKーTHE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO

<「永遠の戦争」を続ける必要はない。アメリカは中国や温暖化などの、戦略課題にシフトするべき時だ>

タリバンの攻勢を前にアフガニスタン政府軍はひとたまりもなく敗走し、アシュラフ・ガニ大統領はそそくさと国外に逃亡。残された市民は空港に殺到し、離陸する米軍機にしがみついて死者まで出る騒ぎに──。

こうした光景を目の当たりにして世界中のメディアが抗議の声を上げ、ジョー・バイデン米大統領は轟々たる非難の矢面に立たされた。

アメリカはアフガニスタンを失い、メンツも失った。「いざというとき頼りにならない国」として同盟国の不信を買い、バイデン政権は深刻な痛手を受けた。タリバン政権の復活はアフガニスタンの人々を苦しめるばかりか、世界を再びテロの脅威にさらす危険もある。

近年ではアフガニスタン駐留米軍の人的被害はごくわずかだったことを考えると、米軍撤収は明らかにコストが便益を上回る「まずい判断」だ。

だが待ってほしい。このロジックは米軍駐留の副次的な側面ばかり見て、より大きな戦略的構図を見失っている。

バイデンはアメリカの「永遠の戦争」に終止符を打った。これは国家安全保障戦略を練り直し、「テロの脅威」から今日の重要な戦略的課題である「中国、ロシア、イランの脅威」に資源をシフトするための決断だ。

アフガニスタンでの壮大な無駄遣い

そもそもアフガニスタンに1世代のアメリカ人の生命と1兆ドル超の予算をつぎ込むことは、生命財産の壮大なる無駄遣いだったのだ。

過去20年間、「グローバルな対テロ戦争」という概念的な枠組みがアメリカの外交・軍事政策を形作ってきた。2001年1月に大統領に就任したジョージ・W・ブッシュはテロの脅威をさほど重視していなかったが、この年の9月11日、国際テロ組織アルカイダがニューヨークの世界貿易センタービルと首都ワシントン郊外の国防総省を攻撃すると、この攻撃そのものではなく、それに対するアメリカの反応が世界を変えた。

以後、9.11テロへの報復がブッシュの最優先課題となる。1996年からアフガニスタンを支配し、アルカイダのメンバーをかくまっていたタリバンに、米政府は以前からアルカイダの指導者であるウサマ・ビンラディンの身柄引き渡しを要求していた。だが9.11の勃発でもはや交渉の余地はないと判断。米軍はアフガニスタンに侵攻した。

目的はアルカイダをつぶし、ビンラディンを逮捕すること。そしてアルカイダの味方であるタリバンを一掃し、テロの温床と化したアフガニスタンを立て直すことだった。侵攻作戦は目覚ましい成果を上げたが、アメリカがビンラディンを見つけて殺すまでには10年の歳月を要した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:自民総裁選、市場は「岸田路線」の継続性を

ワールド

焦点:米大統領選討論会、踏み込んだ政策論争不在 市

ビジネス

英GDP、7月は前月比横ばい 製造・建設が低迷

ビジネス

英不動産サイトのライトムーブ、豪REAからの買収提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 2
    クルスク州「重要な補給路」がHIMARASのターゲットに...ロシアの浮橋が「跡形もなく」破壊される瞬間
  • 3
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」
  • 4
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 5
    運河に浮かぶのは「人間の手」? 通報を受けた警官…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 9
    「生後45日までの子犬、宅配便で配送します」 韓国ペ…
  • 10
    米大統領選でトランプ・バンス陣営を襲う「ソファで…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 7
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中