最新記事

香港

香港は中国で最も腐敗した都市になる

KILLING HONG KONG

2021年7月16日(金)21時00分
許田波(ビクトリア・ホイ、米ノートルダム大学政治学准教授)

そして8月31日、今度は制服警官の一団が太子駅構内で乗客に襲い掛かり、無差別に暴行を働いた。

フリージャーナリストのバオ・チョイは、7月21日の事件の調査ビデオを制作し、数々の賞を受賞したが、警察との共謀を証明するために車両登録データベースを不正に使用したとして有罪判決を受け、罰金を科せられた。

このビデオを放送した現地テレビ局香港電台には今年3月に新しい監督官が送り込まれた。以後、政治的な番組の放送には彼の事前承認が必要となった。

今年4月15日、香港における初めての国家安全教育日には、おもちゃの銃を別な児童の頭に向ける女子生徒の姿が目撃された。蘋果日報はその写真を掲載し、2019年8月31日の警官による無差別襲撃事件になぞらえた。するとクリス・タンは「フェイクニュース」だと猛反発。今年5月には「偽情報や嘘」の拡散を犯罪と見なすとの指針も発表された。

この警察国家は反対派を「人民の敵」と決め付け、壊滅させるつもりだ。なにしろ今は、国安法を盾にすれば警察が何をしても許され、全ての公務員の資格を審査できる時代。警察を批判する人間は誰でも「警察の敵」になってしまう。

マシュー・チャン首席秘書官(当時)が元朗駅での事件について「警察の対応は市民の期待に応えられなかった」と謝罪したとき、彼は警察監察官協会から露骨に非難された。

中国共産党が創建100周年を祝った7月1日は、香港が24年前に中国へ「返還」された記念日でもあった。北京の支配者たちが望むとおり、今の香港は恐怖のミニ警察国家となり、党と中央政府に従順な都市となった。かつての自由は失われ、代わりに本土並みの度し難い腐敗体質が流れ込んでいる。

繰り返される「腐敗追放」キャンペーンは、しょせんトカゲの尻尾切り。香港に蓄積された富の大きさを考えれば、ここが中国全土で最も腐り切った都会になるのは目に見えている。

かつてニューヨークやロンドンと並び称された国際商業都市・香港を、中国共産党は破壊し、ただの地方都市に変えようとしている。全ては、その一党独裁への抵抗を完璧に封殺するためだ。

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

サハリン2のLNG調達は代替可能、JERAなどの幹

ビジネス

中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予想も下

ビジネス

日産と英モノリス、新車開発加速へ提携延長 AI活用

ワールド

ハマス、新たに人質3人の遺体引き渡す 不安定なガザ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中