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サイバー攻撃は従来と別次元のリスクに...核戦争の引き金を引く可能性は十分ある

FROM CYBER TO REAL WAR

2021年7月16日(金)11時53分
トム・オコナー(本誌外交担当)、ナビード・ジャマリ(本誌記者)、フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

プーチンはその言動から推察すると、サイバー上の不正行為を抑制するための合意に応じるつもりはあるようだ。昨年9月には「今日の主要な戦略的課題の1つは、デジタル分野における大規模な対立のリスクだ」と発言したと、駐米ロシア大使館筋が本誌に明かした。

プーチンはさらに、核やコンピューターの問題に即応する既存の機関を利用して、「国際的な情報セキュリティー」に関する米ロ政府のハイレベルなコミュニケーションを確立したいと考えている。軍事衝突の回避や「内政不干渉の保証」に関する2国間の合意に沿った、新しいルールの制定も支持している。

そして、冷戦時代の核軍備をめぐる議論のように、通信システムへのサイバー攻撃に関して「先制攻撃禁止」のルールを世界的な合意にしたい。大使館筋はプーチンの意向をこう説明した。

一方で、サリバンは記者団に、ロシアとの2国間協議では核の議論が「出発点」になるとも語った。「宇宙やサイバーなどの分野で、戦略的安定の協議に新たな要素を加えるかどうかは、今後の検討課題だ」

実際、米ロ首脳会談後に発表された「戦略的安定」についての共同声明は、核戦争には強い言葉で言及したが、ほかの分野には触れていない。

とはいえ、会談ではサイバー戦争についても一定の進展があった。バイデン政権は最近のランサムウエアの攻撃について、ロシア政府の関与を公には明言していない。ただし、米政府高官はロシアに対し、国内にいるハッカーに、ロシアを出所とするあらゆる攻撃の説明責任を追及するように求めている。

プーチンは首脳会談前にロシアの国営テレビのインタビューで、アメリカも同様の対応をするなら、ロシアで逮捕された者の引き渡しに同意すると述べた。バイデンは、そうした攻撃が米国内から行われた場合は引き渡しに応じると明言している。

今回の会談は、サイバー攻撃をほかの軍事技術と同じように国の兵器の一部として認め、その抑制に国際的な合意が必要であることも示唆している。さらに、国防において情報技術が決定的な重要性を持つことも浮き彫りになった。

「競争の領域はもはや、厳密には軍事ではない」と、米国防総省の国防イノベーションユニット(DIU)のマイク・マドセン戦略的関与担当ディレクターは言う。「経済的なものや社会的なものなど、あらゆる領域がある。これまでは空軍の優位性が語られてきたが、競争に関してはいずれ、サイバーの探究と優位性が重視されるようになるだろう。大国間の競争の時代に、技術競争は最も重要な戦線だ」

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