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建党100周年祝賀文芸公演、江沢民・胡錦涛等欠席させ「毛沢東と習近平」を演出

2021年7月1日(木)06時27分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

習近平は軍事大改革を行い、軍民融合を進めているが、その結果「強軍大国」になったことも誇示された。コロナに打ち勝ったことも習近平の功績として位置づけられているのには、首をかしげざるを得ないが、もっと驚いたのは、出席した国家指導層たちのメンバー選定である。

江沢民&朱鎔基と胡錦涛&温家宝がいない!

なんと、江沢民政権の国家主席(兼中共中央総書記兼中央軍事委員会主席)であった江沢民と朱鎔基(国務院道理)および胡錦涛政権の国家主席であった胡錦涛(兼中共中央総書記兼中央軍事委員会主席)と温家宝(国務院総理)の姿がないのである。

上記CCTVのテレビ画面の下の方に文字化されたものがあるが、この最後の段落辺りに、チャイナ・セブンと王岐山以外の、この祝賀文芸公演に出席した、現在および過去の国家指導層の名前が列挙してある。100名以上の人名があるが、その中には「江沢民&朱鎔基」の名前も「胡錦涛&温家宝」の名前もない。

静止画面の情報もあるが、それを落ち着いてじっくり見ても、検索しても、この4人の名前は出てこない。

習近平の巧妙なトリック

これは実に巧妙なトリックだ。

つまり、舞台の第3章は、中国共産党歴史展覧館第三部分同様、「鄧小平+江沢民+胡錦涛」を一つにまとめた「過渡期の指導者」として位置づけられているが、鄧小平は他界しているので、ここで江沢民と胡錦涛がいなければ、まさに「過渡期の指導者」は存在せずに「新中国を建国した毛沢東」と、「新時代を築いた習近平」の二人だけの存在となる。

「中国」という国家にも、「中国共産党」という100年の歴史にも、「毛沢東と習近平」しかいないのである。これが習近平の「主張」でもあるのだ。

ここまでしないと、「鄧小平への復讐」は達成されないのだろう。

いや、まだまだ今からだとは思うが、少なくとも建党100周年を、どこまでも最大限に活用しようとしている習近平の心が透けて見える。

弁明はいくらでもできる。

江沢民が高齢なので主席が困難だろう。そなると、朱鎔基も出席しないようにしないと、江沢民が不機嫌になるだろう。なぜなら江沢民と朱鎔基は犬猿の仲だからだ。

江沢民&朱鎔基を省いたのなら、胡錦涛が出席することにも江沢民は腹を立てるだろう。おまけに江沢民は胡錦涛とも犬猿の仲だ。となれば温家宝一人が出るのも具合が悪い。そこで4人全員を出さないことにしたと、こう釈明すればいいことになる。

いずれにせよ、習近平の行動は、「鄧小平への復讐」を念頭に置かない限り、正確には分析できないことは確かではないだろうか。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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