最新記事

ロシア

「接種すれば現金給付」それでもロシア国民が、自国産ワクチンを信じない訳

NYET TO VACCINATION

2021年6月15日(火)20時49分
メアリー・エレン・カグナソラ
ワクチンの移動式接種会場の外で順番を待つ人々(クリミア半島のシンフェロポリ)

ワクチンの移動式接種会場の外で順番を待つ人々(クリミア半島のシンフェロポリ)

<世界最速でスプートニクVワクチンを承認するも接種は遅れ気味。供給不足や国民の根強い政府不信が遅延の原因に>

ロシアは昨年8月、世界に先駆けて新型コロナの国産ワクチン「スプートニクV」を承認したが、国民はいまだに接種に及び腰だ。AP通信の報道によれば、接種促進のため首都モスクワでは当局が60歳以上の高齢者を対象に、ワクチン接種と引き換えに1000ルーブル(約1500円)のクーポンを支給しているという。ロシアの60歳以上の高齢者の年金受給額は1カ月わずか2万ルーブル(約3万円)だから、これは大きいが、接種率はなかなか伸びない。

2回接種を完了した人は5月19日時点で国民の約7%。政府は6月中旬までに国民1億4600万人のうち3000万人以上に接種することを目指しているが、目標達成のためには接種ペースを「明日にでも1日37万人に」倍増させる必要があるとロシアのデータアナリスト、アレクサンドル・ドラガンは語った。

モスクワ市民のウラジーミル・マカロフは4月、市北部のショッピングセンターでワクチン接種が行われているのを見掛けた。10分で接種できると分かったが、彼も多くの市民同様しばらく様子を見ることにした。モスクワでは18歳以上なら200カ所以上ですぐにワクチンが接種できる。国や民間の診療所、商業施設、病院、劇場でも可能だ。それでも市民は接種に二の足を踏んでいる。

昨年12月から大規模接種が始まったが、今年4月半ばまでに1回は接種した人は市民1270万人のうち100万人余りと、約8%だった。ロシア全体でも同様で、5月19日時点で1回接種した人は1477万人、2回接種を完了した人は約1000万人と総人口の約7%。5月上旬に44%が1回目の接種を終えたアメリカに大きく遅れている。

進まない要因の1つは供給

モスクワ以外の地域も奨励策を講じている。極東のチュクチは高齢者を対象にワクチン接種と引き換えに2000ルーブル、隣のマガダン州は1000ルーブルの支給を約束。サンクトペテルブルクのある劇場は接種証明書を提示すればチケット代を割引すると申し出た。

ロシアでワクチン接種が進まない要因の1つは供給だ。ロシアの製薬企業は量産体制の強化が遅れ、3月には多くの地域で供給不足が生じた。

今のところ、ロシアで入手可能な3種類のワクチン(2回セット)は2800万セットが生産された。そのほとんどがスプートニクVで、品質検査を経て市場に流通しているのは1740万セットにすぎない。

各地で接種待ちは解消されないままだ。ロシアで5番目に人口の多いスベルドルフスク州では、州保健当局によれば4月半ば時点で17万8000人が接種待ちだったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、11月CPIが予想下回る 

ビジネス

トランプ氏、FRB議長候補のウォラー理事と面会 最

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩和の大統領令に署名 分類見直

ワールド

米政権、ICC判事2人に制裁 イスラエルへの捜査巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中