最新記事

免疫

風邪をひいているとコロナを予防できる可能性がある 米イェール大研究

2021年6月29日(火)16時30分
青葉やまと

風邪の感染時に身体の防御機構が「起動」し、臨戦状態になるという...... Christian Horz-iStock

<先に風邪をひいていると免疫系が直ちに反応でき、体内でのコロナウイルスの増加を食い止めてくれるのだという>

日頃不便に感じる風邪も、気づかないうちにコロナウイルスから身体を防御してくれているのかもしれない。アメリカの研究により、風邪をひいているとコロナに感染しにくいという可能性が示された。

風邪の原因にはさまざまなウイルスがあるが、最も多いのはライノウイルスによるものだ。風邪の症例のうち2割から5割程度のケースで原因になっており、とくに春と秋のシーズンに多くを占めるといわれる。

イェール大学で免疫生物学を研究するエレン・フォックスマン博士たち研究チームは、このライノウイルスの副次的な効果に着目した。一般的な風邪をひいてこのウイルスに感染していると、コロナウイルスが体内に侵入したとしても、増殖を抑えることができるのだという。研究の結果がこのほど、薬学学術誌のエクスペリメンタル・メディシン誌上で公開された。

新型コロナの爆発的増殖、ラボの実験でほぼ皆無に

新型コロナウイルスは、鼻から喉にかけての上気道と呼ばれるエリアに付着して侵入する。そこで研究チームは、新型コロナウイルスが気道組織上でどのように増殖するかを2つのパターンで検証した。

はじめに、人工的に培養したヒトの気道組織に新型コロナウイルスを感染させたところ、組織内のウイルス量は6時間ごとに倍増という圧倒的な速度で増殖し、3日間でピークに達した。一方、あらかじめライノウイルスに感染させた気道組織で同様の実験を行ったところ、新型コロナウイルスの複製はほぼ完全に阻害されることが確認された。

実験ではさらに、通常時のヒトの免疫機能だけでコロナへの感染を阻止できるかを検証した。結果、コロナへの曝露量がごく少ない場合には感染を防止できたが、ウイルス量が一定以上になると無力であったという。すなわち、少量の新型コロナウイルスに曝された場合は本来の免疫のみで防御できるが、一定量以上の量に曝された場合には、ライノウイルスの有無が感染の明暗を分ける可能性がある。

先にひいた風邪が免疫機能を「起動」してくれる

コロナの感染を防ぎやすくなるといっても、ライノウイルスが直接コロナウイルスを撃退してくれるわけではないのだという。防御作用が生じるのは、風邪の感染時に身体の防御機構が「起動」し、臨戦状態になっているためだ。免疫が高まるまでのタイムラグが生じなくなり、コロナへの曝露時に遅延なく免疫効果を発揮できるようになる、と博士たちは考えている。

一般に、体内でウイルスが検知されると、免疫細胞がたんぱく質の一種であるインターフェロンを分泌する。インターフェロンはほかの細胞上にある複数の受容体と結合し、結果的に「インターフェロン誘導遺伝子」と呼ばれる遺伝子群を産生することで、ウイルスへの抵抗力を高める。

新型コロナウイルスへの感染時にも体内の細胞はインターフェロンの分泌を始めるが、コロナウイルスは感染初期に爆発的なスピードで増殖する。そのため、ウイルスの量に対抗できるだけの十分なインターフェロンの産生が間に合わず、感染が進んでしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中