最新記事
シリア

ロシア・シリア両軍がシリア北西部イドリブ県に対する爆撃・砲撃を激化:市民を狙った無差別攻撃か?

2021年6月11日(金)17時50分
青山弘之(東京外国語大学教授)

...そして6月10日の爆撃・砲撃

そして6月10日、ロシア軍が攻撃に加わった。シリア人権監視団、反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤ、ザマーン・ワスルなどによると、ロシア軍戦闘機が早朝、ザーウィヤ山地方のカフル・ウワイド村、ファッティーラ村、マウザラ村、ハルーバ村、フライフィル村、マジュダリヤー村、カンダ村、サーン村に対して12回以上の爆撃を行ったのである。

また、シリア軍もバイニーン村、バーラ村、サーン村一帯に対して迫撃砲・ロケット弾40発以上、地対地ミサイル20発以上を打ち込むなどして、攻撃を続けた。

ただし、シリア人権監視団によると、シリア軍の攻撃は、トルコ軍が「決戦」作戦司令室支配地各所に設置している基地や拠点から、シリア政府支配下の県南部(カフルナブル市など)やサラーキブ市一帯を砲撃したことを受けて行われたという。

トルコ軍はまた、シリア軍の反撃を受けてサラーキブ市一帯に対する砲撃を激化、シリア軍もバーラ村に設置されているトルコ軍の拠点一帯を砲撃するなどして応戦した。

なお、ザマーン・ワスルによると、シリア軍の砲撃が激化したのを受けて、住民が連日数千人単位で「解放区内」のより安全な地域への避難を続けている。

シャーム解放機構の報道官死亡

ロシア軍とシリア軍の一連の攻撃によって、シャーム解放機構と国民解放戦線に所属するシャームの鷹大隊の戦闘員8人と住民4人の計12人が死亡、少なくとも11人が負傷した。

死亡した戦闘員8人のなかには、シャーム解放機構の軍事部門公式報道官のアブー・ハーリド・シャーミー、メディア関係局のアブー・マスアブ・ヒムスィーとアブー・ターミル・ヒムスィーが含まれている。

aoyama20210611c.jpg

ザマーン・ワスル、2019年3月7日

ドゥラル・シャーミーヤによると、シャーミー報道官は、トルコ人記者を含む複数の報道関係者とともに現場を視察中に戦闘に巻き込まれ、イブリーン村に対するシリア軍の砲撃によって負傷した民間人を搬送しようとしていたところを爆撃され、死亡した。

シャーム解放機構に近いサイトのイバー・ネットも、シャーミー報道官の死亡を伝え、弔意を示した。
アブー・マスアブ・ヒムスィーもこのシャーミー報道官とともに死亡した。

アブー・ターミル・ヒムスィーを含む戦闘員6人は、負傷者を収容するために民間の車輌で現場に向かおうとしていたところを、シリア軍の地対地ミサイルの攻撃を受け死亡した。

一方、住民4人のうち2人が子供、1人が女性だった。
大物戦闘員の殺害は、2019年6月8日にハマー県北部でのアブドゥルバースィト・サールート(バセット)殺害以来の戦果である(「テロリストに転落した「革命家」、バセットの死:シリア情勢2019(3)」を参照)。

なお、シリア軍、「決戦」作戦司令室のそれぞれを支援するロシアとトルコは6月8日、サダト・オナル外務大臣補を代表とするトルコの使節団がモスクワを訪問し、ロシアのミハエル・ボグダノフ外務副大臣らと会談している。

会談では、シリア内戦の包括的解決への方途や、越境(クロスボーダー)人道支援を定めた国連安保理決議第2165号(2014年7月14日)の更新(2021年7月10日に失効、「シリア:周辺諸国からの越境(クロスボーダー)人道支援の再活性化を求める米国の二重基準」を参照)の是非が協議されたといった憶測が流れているが、今回のイドリブ県での戦闘激化をめぐって意見が交わされていたかどうかは不明である。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中