最新記事

プライド月間

貨物列車の屋根に乗って逃げてきた──LGBTQ+の移民たちが語る「プライド」の意味

What Pride Means to the World's LGBTQ+ Refugees

2021年6月22日(火)20時54分
アレックス・ルーハンデ 
ホンジュラス出身のソパル

今は両親とも和解し幸せだと語るソパル International Rescue Committee/YouTube

<性的志向を理由に迫害を受けて自国を逃れ、アメリカに移住した3人が今思うこと>

1969年6月、ニューヨークのマンハッタンにあるゲイバー「ストーンウォール・イン」に、警察の手入れが入った。同性愛がまだ違法の時代、密かに営業していたストーンウォールは、同性愛者たちにとって数少ない楽園だった。その夜、客たちは警察の暴力に抵抗し、抗議は数日間にわたる暴動に発展した。

このストーンウォール暴動が原点となり、6月はLGBTQ+の人々の権利擁護のための「プライド月間」になった。世界では今も71カ国が同性愛を法律で禁じており、うち11カ国では、違反者は死刑に処せられる可能性がある。今は同性婚も認められ、世界中のクィア(性的少数者)が希望と安全を求めてやってくるアメリカでも、差別は根強い。

難民支援NGO「国際救済委員会(IRC)」の予防アドバイザーであるクディジャ・アスガルは本誌に対し、一定数の人々はLGBTQ+の人々を「自然の摂理に反する」存在で、「平等な人間とは思っていない」と述べた。

一部の社会に根差すこうした考え方が、LGBTQ+の人々を弱い立場に追い込み、彼らの多くが家族から追放されたり、雇用機会を奪われるなどの差別の犠牲になっている。男性優位の論理で暴力や嫌がらせを受けることも多い。

偏見や無理解に苦しめられて移住を決断

一部のLGBTQ+の人々はこうした社会で生きていくことに耐えられず、逃げ出したり、時には自ら命を絶つ。以下に紹介するのは、IRCの支援を受けてアメリカに移住した3人。いずれもLGBTQ+であることを理由に迫害を受け、母国から逃れてきた難民だ。

■リンジー・ソパル(ホンジュラス出身)


ホンジュラスで育ったリンジー・ソパル(34)は、トランスジェンダーの女性。17歳の時に女性としての自分を意識し始め、22歳で正式に女性になった。そのことを知った両親は彼女を嫌悪して遠ざけ、すぐに周囲の人々からも孤立した。

ソパルが通りを歩くと、近隣の人々は彼女から子どもを遠ざけ、彼女を笑いものにし、非難し、唾を吐いた。仕事に応募すると差別を受け、地元の警察もほとんど頼りにならなかった。最終的に、ソパルは衣服のデザインや寸法直しを行う事業を立ち上げて、生計を立てる道を見出した。稼ぎは良く、生活も順調だった――しばらくの間は。

ある日、彼女の事業が順調であることを知ったギャングのメンバーたちが、彼女のアパートに押し入った。彼らはソパルに銃を突きつけて寝室に追いやると、部屋を荒らして高価なものを奪っていった。あるメンバーは「彼女の外見は気に食わない」が、生かしておけばもっと稼げるから殺さない、と言った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中