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貨物列車の屋根に乗って逃げてきた──LGBTQ+の移民たちが語る「プライド」の意味

What Pride Means to the World's LGBTQ+ Refugees

2021年6月22日(火)20時54分
アレックス・ルーハンデ 

残されたわずかなものをかき集めながら、「もうこの国を出て行こう」と彼女は決心した。無一文になった彼女が北を目指す方法は限られていた。彼女はメキシコを縦断する貨物列車「ラ・ベスティア(野獣)」に乗った。ソパルは列車の屋根に「クモのように」ベルトで体を固定して、(米テキサス州の)エルパソを目指した。一緒に列車に乗った仲間の中には、時速約30キロで走る列車から振り落とされて轢かれた者もいた。

なんとかアメリカとの国境にたどり着き、国境管理当局に出頭。3カ月と11日を移民収容施設で過ごした後、ようやく難民申請が認められた。拘束されて収容施設に入れられたことで精神的に大きなダメージを受け、自殺も考えたが、希望を持ってなんとか持ちこたえた。ソパルはその後、アリゾナ州フェニックスに居を構え、現在はそこで衣服のリニューアル会社を経営する。家族とは和解し、自立した「プラウドな(誇り高い)」生活を送っている。

父親に「殺すぞ」と脅された

「プライドは、まさに人生に幸福をもたらしてくれるものだ」と彼女は本誌に語った。「大切なのは誇りをもって自分の人生を救い、新しい国にたどりついて人生を立て直すこと。そして事業を立ち上げて、この国の成長を手助けしていくことだ」

■シャディ・イスマイル(シリア出身)
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自分を変える必要はないことに気づいた、というイスマイル FACEBOOK


25歳の時にシリアからアメリカに移住したシャディ・イスマイル(34)は、アメリカに到着した「2012年5月7日の午前11時30分」という日付と時刻を今でもはっきり覚えていると本誌に語った。彼の人生が「大きく変わった」瞬間であり、色々な意味で、人生という旅の新たなはじまりの瞬間だったからだ。

イスマイルは幼い頃に、自分がほかの人とは違うことに気づいた。ベリーダンサーとしての才能を自覚した時、父親から非難めいた目で見られたことがきっかけだった。2008年、シリア政府によって義務づけられている2年間の兵役を終えて彼が帰宅した後、両親は彼が同性愛者であることを知った。父親は彼に熱した石炭を押しつけ、殺すぞと脅した。その直後、イスマイルはシリアを去ってヨルダンに渡った。

ヨルダンで彼を待っていたのは、路上生活だった。仕事に応募しても次々と断られた。ようやく給仕人の仕事を見つけて、そこで2年間働くうちに、少しずつ評価が上がっていった。上司はイスマイルに「お前のことを誇りに思う」と言い、自分の子どもにも彼のように育って欲しいと言った。だがイスマイルが友人との電話で同性愛者であることについて語っているのを耳にすると、態度は一変した。

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