最新記事

プライド月間

貨物列車の屋根に乗って逃げてきた──LGBTQ+の移民たちが語る「プライド」の意味

What Pride Means to the World's LGBTQ+ Refugees

2021年6月22日(火)20時54分
アレックス・ルーハンデ 


イスマイルは路上生活に逆戻りし、彼が同性愛者だと知った3人の男から暴力を受けた。男たちに金を奪われ、顔や首には殴られてできた痣や傷跡が残った。翌日、イスマイルは国連のセンターを訪れて難民申請の手続きをした。1カ月後、彼はアメリカを目指す旅に出た。

新たな生活を始めたのはアイダホ州のボイジー。移住して15日後には、企業の用務員の仕事も見つかった。今は食肉加工工場での品質・安全管理の仕事をしている。

地元コミュニティーにも居場所を見つけた。占いをし、手縫いのブランケットや瞑想用の枕をつくる事業を立ち上げ、ボイジーで行われるプライド・パレードに参加した。彼の物語はすぐに全国的な注目を集め、アップルTVの「リトル・アメリカ(アメリカで移民として暮らす人々の実話を基にしたドラマ)」の最終エピソードで取り上げられた。

「プライドとは賛美することであり、自分を変えなくてもいいことだ」とイスマイルは本誌に語った。「私はゲイという人間ではない。もちろん私がゲイだが、ひとつの分類だけに特定されたくはないんだ」


■クリスチャン(エルサルバドル出身)

webw210622_lgbt_refugee3.jpeg

24歳のクリスチャン(本人の安全のために、姓は非公表)は、祖国エルサルバドルでの「つらく悲しい」日々を経て、アメリカにやって来た。ゲイ男性であるクリスチャンは、ごく早いうちから、居場所のなさを痛感していた。友だちは彼から離れていき、仲間からはのけ者にされ、職場でも避けられた。卑猥な言葉を頻繁に投げつけられ、よく「捨て犬」のような気持ちになっていたと振り返る。

年齢が上がるにつれ、クリスチャンに向けられる攻撃は狂暴さを増していった。ギャングメンバーに通りで暴行を受け、金を出さなければ命はないと言われた。ギャングたちはじきにナイフを手に襲ってくるようになり、クリスチャンは自分と家族の命が危険にさらされるのではないかと不安を覚えた。精神状態は日に日に悪化し、クリスチャンはついに、祖国を去るときが来たと決心した。

彼はたったひとり、ほとんど無一文でエルサルバドルをあとにした。メキシコに着くと安堵感に包まれたが、それも長続きはしなかった。ゲイであることを理由に、移民シェルターから追い出されてしまったのだ。クリスチャンはアメリカとの国境に近い都市シウダー・ファレスまでのバス代を稼ごうと、15日間休まず働いだ。賃金には一切手を付けず、1日も早くお金を貯めるために食事も抜いた。やっとバスの切符を手に入れると一文無に戻ってしまい、バスに乗っている3日間は飲まず食わずで我慢した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材

ビジネス

NY外為市場=円上昇、一時153円台 前日には介入

ワールド

ロシア抜きのウクライナ和平協議、「意味ない」=ロ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中