最新記事

パレスチナ

勝者なき停戦で笑うのはネタニヤフ首相とハマス、そしてバイデンも?

2021年5月24日(月)16時10分
ジョシュア・キーティング
パレスチナ、ガザ地区

5月21日、停戦を祝うパレスチナの人々(ガザ地区南部の町) IBRAHEEM ABU MUSTAFA-REUTERS

<イスラエルとハマスは5月20日に停戦合意。戦闘開始前の力関係が大きく変わることはないが、関係する全てのリーダーがある程度、望みどおりの結果を得た>

「イスラエルとパレスチナの間に戦争はない。あるのは戦闘だけだ」──2001年にこう喝破したのは、当時イスラエルの首相を務めていたアリエル・シャロンだ。

この両者の戦いではどちらか一方が勝利するということはなく、戦闘開始前の力関係が大きく変わることもないからだ。

このところ、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとイスラエル軍の間で10日余り続いていた戦いも例外ではない。今回の戦闘も、双方共に明確な勝利を手にできないまま、5月20日に停戦合意に達した。

しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は上々の成果を上げたと言えるかもしれない。

戦闘が始まる前、ネタニヤフの政権運営は苦境に陥っていた。野党の連立協議が進展し、自身の長期政権の終焉が目前に迫っていたのだ。

ところが、今回のハマスとの戦闘で連立協議は吹き飛んだ。これにより、当分はネタニヤフが首相にとどまるだろう。

対するハマスは、イスラエルへのロケット弾攻撃を開始したとき、激しい反撃を招くことは承知の上だった。

実際、イスラエルの攻撃でパレスチナ自治区ガザで多くのパレスチナ人が命を失ったが、ハマスの指導部は今回の結果に満足しているように見える。

ハマスが発射したロケット弾の多くはイスラエルの防空システム「アイアンドーム」で迎撃されたが、それでもイスラエル最大の商業都市テルアビブを攻撃する能力を持っていることは実証できた。

それに、ハマスの政治的なライバルであるパレスチナ自治政府のアッバス議長は、政治的に孤立していて、今回の紛争でも存在感を示せなかった。

ハマスは、パレスチナ抵抗運動の実質的リーダーの地位にまた一歩近づいたとみていいだろう。

一方、バイデン米大統領は今回の紛争で明確な態度を示していないと批判されていた。戦闘開始から1週間以上、停戦を呼び掛けなかった。

しかしバイデン政権の高官たちは、イスラエルとパレスチナの当局、そしてハマスとのパイプを持つエジプト政府やカタール政府と繰り返し電話で接触していたという。最終的に、エジプト政府の仲介で停戦が実現した。

バイデン政権による電話での働き掛けにどのくらいの効果があったのかは不明だ。

それでも、多くの人が恐れていたよりもはるかに早く停戦にこぎ着けたことで、バイデンが言う「静かで執拗な外交」の有効性がいくらかは示されたと言えるかもしれない。

要するに、関係する全てのリーダーがある程度は望みどおりの結果を得ることができた。しかしその一方で、パレスチナの状況は悪化の一途をたどっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、中南米に空母派遣へ 軍事プレゼンス

ワールド

米朝首脳会談の実現呼びかけ、韓国統一相、関係改善期

ワールド

ロシア特使が訪米を確認、「対話継続を示す証拠」

ワールド

レーガン氏の自由貿易擁護演説が脚光、米カナダ間の新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中