最新記事

人種問題

ジョージ・フロイド事件「有罪」で実現しなかった「正義」とは何か

2021年4月26日(月)17時45分
ケレボヒリ・ズボブゴ(米ウィリアム・アンド・メアリー大学国際正義研究所所長)
ジョージ・フロイド追悼壁画の前で有罪評決に歓喜するミネアポリスの人々

有罪評決に歓喜する地元ミネアポリスの人々(4月20日) ADREES LATIF-REUTERS

<評決により説明責任は果たされたが、2013年以降に9000人が警官に殺されてきたアメリカに必要なのは、警官の「非武装化」などの改革だ>

ミネソタ州地裁の陪審は4月20日、昨年5月25日に黒人男性ジョージ・フロイドが殺された事件について、ミネアポリスの元警官デレク・ショービンに意図せざる第2級殺人、第3級殺人、第2級過失致死で有罪評決を出した。

全米中のオフィスと家庭、そしてストリートで無数の人々がほっと息をついた。フロイドはあの日、首に膝を押し当てられ、9分29秒間も息をつけない状態に置かれ続けた。

この評決で説明責任は果たされたが、「正義」が実現したと言えるわけではない。フロイドは警官によって白昼堂々と殺されたのだ。衆人環視の中で、ゆっくりと残酷に。

彼は息ができないと訴え、助命を嘆願した。傍観者の一部は警官の行為を警察に通報して彼を救おうとした。だがフロイドは死んだ。二度と家族の元には帰ってこない。

ミネアポリスとミネソタ州、そしてアメリカ全体の警察は根本的に破綻している。根本的に正義に反する存在なのだ。

評決から1週間ほど前の4月11日、20歳のダンテ・ライトが交通違反取り締まり中の警官に至近距離から撃たれた。その現場は地裁から十数キロしか離れていない。ミネソタ州では2000年以降、200人近くが警官に殺された。全米では2013年以降、9000人以上(その多くが黒人)だ。

フロイドを死に追いやった「システム」は変更されず、その後もライトを含む多くの人々が死んだ。つまり、フロイドの死に対する説明責任は果たされたが、正義は実現しなかったのだ。

正義とは──首を絞める警官の制圧行動と無断家宅捜索令状の禁止だ。警官の「非武装化」とボディーカメラの装着義務付けだ。警察の不正行為に関するデータを集め、広く共有することだ。治安よりも安全を優先した地域密着型の警察活動だ。そしてジョージ・フロイドの名を冠した警察の改革法案を成立させることだ。

フロイドの娘ジアンナ・フロイドは、「お父さんは世界を変えた」と言った。議員も警官も一般市民も、それを目指して行動ができるし、そうすべきだ。

裁判が終わる数日前、マクシーン・ウォーターズ下院議員(民主党)は、有罪評決が出なければ「対決姿勢をもっと強化」しようとデモ参加者に呼び掛けた。下院共和党はウォーターズの問責に動き、ショービンの弁護士は裁判の無効を申し立てた。

結果は不発に終わったが、いずれも人種的正義を求める抗議活動やデモに対する強い不信感を示している。しかし、抗議活動やデモは変革の前触れだ。それがアメリカの歴史であり、世界の歴史でもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米7月雇用7.3万人増、予想以上に伸び鈍化 過去2

ワールド

ロシア、北朝鮮にドローン技術移転 製造も支援=ウク

ビジネス

米6月建設支出、前月比0.4%減 一戸建て住宅への

ビジネス

米シェブロン、4─6月期利益が予想上回る 生産量増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中